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「だからね、本当に嫌なの。分かる?」
 新人AV女優・星山理奈は、付き人の岸田耕平にそうぼやいた。
「変態なんだよ。分かるでしょ? 普通に女性を愛せないなんて、まともじゃないよ」
「でも、仕事だからでしょう。社長だって、プライベートのセックスは普通だと思うけどなあ」
「分かんないわよ、中年のオヤジなんて。きっと、頭の中は変態的なセックスのことで一杯なんだから。ああ、気持ちが悪い」
 理奈がさも嫌そうな顔で頭を振るのを、公平は複雑な表情で見ている。


 まだ時間が早いこともあって、居酒屋の中はまだ閑散としていた。店員達はそしらぬ顔で、それでいてしっかりと、カウンターに並んでビールを飲んでいる二人の会話に聞き耳を立てている。
 なにしろ、こんなに若くてかわいい理奈が、縛るだの、お尻の穴にバイブを入れるだのというきわどいセリフを連発しているのだ。男なら誰でも興味を惹かれるだろう。
 目の前に立っている眼鏡を掛けた店員は、焼き鳥の串を返しながら理奈の胸元にちらちらと目をやっている。この乳をどこかの男が揉んでいるのかと、厭らしい想像をしている様子が傍目にも分かる。
 ちょっと奥の位置で揚げ物を揚げている若い店員は理奈の顔の方に興味があるらしく、よく動く理奈の唇をしきりに見詰めている。
 日頃は男たちの視線に敏感な理奈だが、今日は店員たちの好奇の視線に全く気付かない。夢中になって、社長の悪口を並べ立てている。それほど、理奈の怒りは激しいということだ。


「それもよりによってだよ。よりによって、なんで私がそんな、縛られなきゃならないわけ? 訳分かんないよ」
 そう。今日理奈は、社長からNGのSMも試してみたらどうかと打診されたのだ。その時の理奈の怒り様と言ったらなかった。灰皿は投げる、テーブルはひっくり返す、仕事をやめると騒ぎ出し、事務所を変えると泣き出して、結局社長が土下座して謝るまで暴れ続けた。
 それだけ暴れても、まだ理奈の怒りは収まらない。それでこうして、酒を飲みながら耕平に愚痴を聞いてもらっているという訳だ。
「それにしても、理奈ちゃん、本当にSMが嫌いなんだね」
 SMという言葉に反応して、理奈の表情がぎらりと険しくなる。反射的に耕平は、二人の間に置いてあった灰皿を反対側に移す。さっきの騒ぎが、先ず灰皿を投げることから始まったのを思い出したのだ。
「当たり前でしょう? そんな変態的なセックス、好きな女の子なんて居る訳?」
「いや、居ないね。ごめんなさい、居ません」
「当たり前でしょ? そんな当たり前のこと、私に訊かないでよ、馬鹿!」
 耕平は慌てて、理奈のコップにビールを注ぎ足す。コップをガシッとつかんだ理奈の仕草が、今にもそのコップを床に叩き付けそうに思えたからだ。耕平のとっさの機転が効を奏したのか、理奈は黙って注がれたビールを飲み始める。そんな理奈の様子を見て、耕平は小さく息を吐く。
 事務所を出てこの店に入ってきたのが午後四時くらいだったから、理奈と耕平の自棄酒大会はもうかれこれ二時間以上、続いていることになる。放っておけば、理奈はあと四、五時間、社長の悪口を肴に飲み続けられそうな勢いだ。怒っても怒っても、理奈の社長への怒りは収まらない。
「だいたい、女を荷物みたいに縛って喜ぶ男って、いったいなんなのかしら。ねえ、耕平、そういうのって、分かる?」
「うん? そうだねえ、まあ……」
「え? 分かるの? やだ、耕平も、変態なの? うわあ、最低」
 理奈は大きな目をくりくりさせながら、本当に嫌そうに耕平を睨んだ。体も少し耕平を避けるように引いたが、そうやって体を動かすとノーブラの胸がぷるるんと揺れるし、脚を組んだミニ・スカートの奥からはレースの黒パンティがちらりと覗く。色々な意味で困った耕平は、曖昧な笑顔を理奈に返す。

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