二人がようやく店を出た時には、もう十一時を回っていた。
「うおおい! 矢でも鉄砲でも持ってこおおい!」
すっかり出来上がってしまった理奈は、耕平に支えられながら千鳥足でふらふらと歩いている。酒量も随分いってはいるのだが、やはり自棄酒は悪い回り方をするものなのだろう、今日の理奈は特に悪酔いしていた。
「理奈ちゃん、もうちょっと抑えて。もう、夜遅いんだから」
「がああ! みんな起きろう! 星山理奈さまのお通りだあ!」
「ああ、お通り、お通り」
日頃はぶりっ子アイドル風の星山理奈なのだが、酒を飲むと妙に親父臭い酔い方をする。事情が事情だけに、今日は特に激しくオヤジ化していた。
二人の目の前に、四階建てのこじんまりとしたワンルーム・マンションが見えてくる。そのマンションの三階の、一番左の部屋が理奈の家だった。
「ほら、着いたよ、理奈ちゃん。鍵出して。乳出すんじゃないよ、鍵。さあ、開いた。靴脱いで。ああ、投げちゃ駄目だって! 危ない、もう少しで下に落ちるところだった。だから、大人しくしろって!」
すったもんだの末に、ようやく理奈をベッドに寝せる。服を着たまま横になった理奈に蒲団を掛けてやって帰ろうとする耕作の腕を、理奈がつかむ。
「なんだ、寝てなかったの」
「帰っちゃうの?」
そう言って開けた理奈の目が、欲情していた。
ビデオに出ていることがバレて彼氏と別れた理奈は、もうずっとプライベートでエッチしていない。仕事でのセックスは幾らでもあるが、甘える胸に飢えている。そんな思いが、酔うと時々顔を出す。
潤んだ瞳で、じっと耕平を見詰めてくる。腕をつかんだ手にじわっと力が入って、耕平をベッドの中に引き込もうとする。
耕平は理奈のその手をそっと外し、蒲団の中に押し戻す。理奈は一瞬、不満そうな顔付きになったが、くるっと耕平に背中を向けて、そしてすぐに穏やかな寝息を立て始めた。
「おやすみ。また明日から、頑張ろうね」
ドアに鍵を掛け、いつものように新聞受けの中に鍵を投げ込むと、耕平は大きく溜息を吐いた。
「無理だよ、理奈は」
思い詰めたように独り言を言う。さっきの理奈の誘いに素直に乗れないほど、耕平は悩んでいた。
マンションから出ると、耕平は携帯を取り出して、昼間別れた社長に電話をする。
「ああ、耕ちゃん? お疲れ様。今日の理奈ちゃん、すごかったねえ」
「辻本さんがあんなこと、言うからですよ」
「ごめんごめん。ちょっと早かったかなあ、ああいう話を出すのは」
「いや、早いとか遅いとか言うことじゃなくてですねえ」
「理奈ちゃん、どうだった? まだ、怒ってる?」
「怒ってますよ。あれから、ずっと今まで怒ってたんですから。大変だったんですから」
「悪い悪い。ちょっと耕ちゃんのこと、手伝ってあげようかなと思ったんだけど、裏目に出ちゃった。もうこれからは、余計なことしないから。もう、耕ちゃんに全部任せるから」
「辻本さん、俺、やっぱり無理ですよ。自信無いです。降りていいですか? もう、ギャラも要りませんから。もう、辞めさせてくださいよ」
「また、耕ちゃんが、そういうことを言い出す。でも、なんだかんだ言って、ちゃんと責任果たしてくれるところが耕ちゃんのいいところだもんね。じゃ、頼んだよ」
「あ、辻本さん! まだ切らないでくださいよ、俺、本当に……ああ、切れちゃったよ」
耕平はいまいましそうに、携帯をポケットに押し込んだ。
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