撮影の合間の休憩時間、SM嫌いの理奈は、今日もパワー全開だった。
「やだあ。なんでそんなことするわけ? 断りゃ良いじゃない」
心底不快そうな顔をしてそう叫ぶ理奈に、山中恭子は曖昧な笑顔を返す。
恭子は、いわゆる企画物女優だ。アイドル扱いの理奈と違って、ある時は素人団地妻、ある時は素人女子校生、ある時は素人レース・クイーンと、様々な肩書きでビデオに登場する。
素人だから、当然、その時その時で名前も変わる。撮影の当日になって初めて、その日の自分の名前が分かる。
今日、恭子は理奈と共演することになっている。星山理奈がソープランドの一日修行をして、ソープ嬢と男優にメロメロにされるというストーリーだ。恭子はソープランドに勤めているソープ嬢の役なのだが、恭子の場合、ビデオの仕事が無い時には本当にソープで働いているので、このシチュエーションはまんざら嘘でもない。
今、理奈が怒っているのは、その前の撮影で恭子が受けた仕事のことだ。複数の男優が素人娘を調教するという内容で、恭子はそのビデオの中で縛られたり、バイブで責められたり、輪姦されたりしたという。浣腸されたり、蝋燭で責められたりもしたらしい。
理奈は撮影内容の酷さに、まるで自分のことのように腹を立てる。そんな理奈に、恭子は遠慮がちな反論をする。
「されてみると、結構気持ちよかったりするのよ」
「蝋燭垂らされるんでしょ? 熱いじゃない。火傷するじゃない」
「見た目ほどは熱くないのよ。それに、あ、熱いって思った時にね、あそこがきゅっと締まって、その感じがいいのよ」
「分かんない。私には全然、分かんない」
二人の話を隣りで聞いている耕平は、このまま家に帰ってしまいたい気分だった。
自分のことでもないのに目くじら立てて憤慨している理奈を見ていると、どんどん気分が滅入ってくる。つくづく自分は、大変な約束をしてしまったものだと思い知らされる。
(この娘は心底、SMが嫌いなんだなあ)
女の子というものは、そもそも本質的にマゾなのだというのが、耕平の持論だった。どんな女性でも、調教しさえすれば誰でもマゾに育てることができると信じていた。
だが現実には、SMエヌジーの女優はたくさん居る。無理にSMプレイを強要して、後でトラブルになることも結構多い。
そんな女たちと比べても、理奈のSM嫌いは群を抜いていた。SMという言葉を口にする人間と、同じ空気を吸うのさえ嫌だという感じだった。
もし理奈を無理矢理押し倒して縛り上げて、厭らしいことを散々したらどうなるだろう。やはり理奈は、自分を警察に訴えるだろうか。訴えられたら自分は前科者になってしまうのだろうか。
だが、違約金を支払えるほどのたくわえが無い耕平には、一か八かの賭けに出るしか道が無い。
「いたたた」
耕平は、お腹を押えて前屈みになる。二、三日前から胃がシクシクと痛むのだ。付き人の給料が出たら一番に医者に行って、胃カメラを呑んでみようと思う。
「じゃ、理奈ちゃん、恭子ちゃん、こっちに来て」
社長兼監督の辻本が、二人に声を掛ける。
実はここは、辻本社長が知り合いに頼んで一日借り切った、ソープランドの一室である。理奈と恭子、耕平の三人が腰掛けて話をしていたのは、日頃ソープ嬢がその上で何人もの男たちとことに及ぶ、ベッドの上だった。
ベッドと化粧台の据えてある絨毯張りの空間と、バスタブやシャワーのある浴室の空間が、殆ど仕切り無しで繋がっている。撮影班は浴室の狭い空間の中にライトや反射板、ハンディ・カメラなどを持ち込んで二人を待ち構えていた。
最初のシーン、星山理奈と先生役のソープ嬢が初対面の挨拶を交わすシーンは、さっきのベッドのところでもう撮り終わっている。今から撮るのはソープ嬢が、星山理奈に最初の講義を始めるシーンだった。
「え? これ、なんですか? へんな椅子」
いわゆる、スケベ椅子を見て、星山理奈が驚く。風呂屋などで使う腰掛の真ん中に太い溝が彫ってあって、そこに座っている人の股間を自由に弄れるようになっているものだ。
もちろん、こんなもの、星山理奈は何度も見て知っている。だが、そこは監督の指示に従い、さも初めて見たようにしゃべり、初めて見たように振舞っている。
「ここに座ってみてください。ほらこうすると」
恭子は理奈を座らせ、理奈の股間に触れないように腕を後ろから前に差し込み、前後に撫でるような動きをしてみせた。それだけで理奈は擽ったがり、腰を引いて両脚を閉じる。
「じゃ、本当にやってみましょうか」
洗面器にローションをお湯で溶き、理奈の背中に流す。その背中を、五本の指先を押し付けるように、両手で撫で擦る。理奈の背中が、ぞくぞくっと震える。
「いやあん。くすぐったい」
「そうですか? くすぐったいのは、苦手ですか?」
「ううん、分かんない」
「ほら、この辺を、こうされたら気持ち良くないですか?」
「あっ!」
理奈が声を出す。その声はもちろん演技だが、単なる演技ではない艶かしさが滲んでいた。
(恭子、意地になってるな)
明かに、本気の愛撫を始めた恭子を見て、耕平はそう思った。
理奈と恭子は、ほぼ同時期にデビューした。デビュー当時の二人には、ほとんど優劣の差は無かった。恭子のスタイルは決して理奈に引けは取らなかったし、顔立ちから言えば、むしろ恭子の方が整っていた。
テクニックにしても二人はいい勝負だった。フェラチオのテクニックも、よがり声の演技も、二人は拮抗していた。
ある日、辻本社長は、二人に整形手術を受けるように勧めた。理奈は言われた通りにし、恭子は断った。親に産んでもらった体にメスを入れたくないというのが、その理由だった。
二人の明暗が分かれたのはこの時だった。 整形して、理奈は恭子よりも美人になった。アイドルAV女優として人気が出て来た理奈はその後、あれもしたくない、これもしたくないとわがまま言い放題でも高いギャラを貰えるようになった。
一方、企画物女優・恭子にNGは殆どない。たった一度の整形NGのために、その後恭子は与えられた仕事はなんでもこなしていかなければならない立場にさせられてしまった。
嫌な仕事は全部断って、しかも良いギャラを貰える理奈。もらった仕事はなに一つ断らずに頑張っているにも関わらず、いまだにAV一本では食っていけず、ソープ嬢との二足のわらじを履く恭子。たった一つの決断の結果生まれた差は、あまりに大きい。
「あ、ああんっ!」
後ろから抱き締められるようにして乳房を揉まれているすでに理奈は、本気で悶え始めている。股間が落ち着かないのだろう、理奈の腰はもじもじと動き続け、脚は閉じたり開いたりを繰り返す。
企画物女優恭子は、もちろんSMもやるが、レズもやる。レズ物の撮影の時、共演した女優は大抵、恭子の愛撫で本気で昇天してしまう。ソープで鍛えた指技は、男以上に女の体に効くらしい。
恭子は今、その愛撫技を全開で理奈を責めているようだ。指の動き一つ一つに理奈は敏感に反応し、余裕の無い声を上げる。予め打ち合わせていたセリフも、もう一つも出てこない。
(企画物女優の意地かな)
恭子は、この場で理奈に本気でいかせることで、さっきの仕返しをするつもりらしい。
さっきの話で、理奈が恭子の仕事を悪く言っていたのは、いつものSM嫌いからきたことだと耕平には分かる。いや、もしかすると恭子だって、そんなことは百も承知かもしれない。
だが、歴然とした立場の違いを見せ付けられた恭子の耳には、そんな厭らしい仕事を受けるなんて信じられないと、自分が責められているように感じられたに違いない。
しかも、理奈と恭子はある時期まで対等だったのである。いや、対等以上だったのである。今だって、理奈が恭子に差を付けているのは整形した顔の美しさだけと言ってもいいかもしれない。
だから、やはりあの時整形しておけばよかったとは、恭子は言わない。だが、整形によって自分より全てについて優遇されている理奈のことを、快く思っていないのは事実だろう。
同じ冷や飯食いの耕平だから、恭子のそんな気持ちを思いやることができる。理奈にはそれができなかった。
そんな理奈の気遣いの無さに、恭子は今復讐しているのだ。
「あああっ!」
恭子がスケベ椅子の溝から腕を伸ばして、理奈の股間を撫で擦り始めた時、とうとう理恵は堪らず身を震わせた。体を前屈みのくの字に曲げ、両脚を内股にして擦り合わせ、両手で必死になってクリトリスに蓋をする。恭子は構わず、理奈の両手の下に指を這わせてクリトリスを撫でたり、膣の中をえぐっていったりする。
「駄目ですよ、理恵さん。まっすぐちゃんと座っていてください。こんなんじゃ、教えられませんよ」
「い、いやあ。やめてえ」
「気持ちいいでしょう、理奈さん。今度は理奈さんが、お客さんを気持ち良くさせてあげなければいけないんですよ」
「あっ、あっ、あっ! ああん、そこ、駄目え」
「ほら、理恵さん、こういうところは、こういうふうに、ほら、こう! こう!」
「あっ! あっ! あはあああっ!」
スタッフや監督があっけに取られて見守っている中で、とうとう理奈は本気でいかされてしまった。ぐったりと脱力して床に突っ伏してしまった理奈の体がぴくぴくと痙攣し、荒い息を吐き続けている。途中から登場する予定だった男優は、ついに登場のタイミングをつかめないままになってしまった。
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