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 パシン パシン
 アンナのお尻が乾いた音を立てる。その度に、アンナはあんっとか、いやっとか小さな声を上げる。だが、いまやアンナは全く、耕平のなすがままになっている。
 頭はべったりと床に付いている。お尻を叩かれているうちに腕の力が萎えて、上半身を支えられなくなってしまったのだ。乱れ髪がアンナの顔を覆う。覆われた髪の下から、切なげな、恍惚とした表情が透けて見える。うっすらと開いた唇の隙間から時々、はっ、はっと吐息が漏れ、微かに頭を振る。撮影の時には一度も見せたことのない、アンナの女の顔だった。
「す、すごい。耕平さん、僕、興奮してきちゃいました」
「なんだ。お前もアンナのこういう姿は見たことがないのか」
「一度もないです」
「俺も初めてだよ。おそらく今まで、アンナのこの表情を見たことのある男は、一人だけだったと思う」
「一人って、」
「こいつの、親父さ」

 耕平は想像する。幼い頃の耕平と同じ、貧しい家庭に育つアンナの姿を。
 狭い家の中で、耕平は父と母の情事の声を聞きながら育った。父に組み敷かれて喘ぎ声を上げる母に、耕平は女を感じた。
 アンナもまた、両親の声を聞いて育ったのではないだろうか。そして耕平と同じように、父親の腕の中で声を上げる母親に女を感じていたのではないだろうか。
 だが、アンナは女だ。そして母親を抱いている男はアンナの初恋の相手だ。アンナは両親の声を聞きながら、嫉妬に胸を焦がしていたのではないか。
 アンナは母親と父親の間に割って入って、自分も父親に抱き締めてもらいたかったに違いない。母親と同じように、自分も女にしてもらいたかったに違いない。
 だから父親の膝の上に乗せられて折檻されるのは、アンナにとって、父親との擬似セックスなのだ。父親の膝のぬくもりを楽しみ、自分の女の部分に近いお尻を責められ、あられもない声を上げることは、アンナにとっての歓びだったのだ。

 全ては、耕平の想像に過ぎない。だが、きっとこの想像は当たっているはずだと、耕平はそう思っていた。
「どうだ、アンナ。痛いか」
「お願い、もう、ぶたないで。ああっ!」
「こう叩かれると、痛いか。これだと、どうだ」
「ああっ! ……ごめんなさい。ああ、ごめんさない」
 もう、アンナの顔は涙でぐしょぐしょだ。男女のアンナは女になって、それから一気に少女になった。今のアンナは、父親に折檻されて泣きじゃくる少女そのものだ。
 気持ちは少女に戻っても、体は大人のままである。アンナの股間の湿り気が、パンティを通り越してジーンズまで染み出してきている。これ以上濡れると帰りに目立つだろうと気を使った耕平が、ジーンズを引き下ろす。一緒にパンティまで引き下ろされて、筋肉質のアンナのお尻がペロンと剥き出しになる。
「あああっ! は、恥ずかしい!」
 悲鳴を上げて、アンナは両脚をばたばたとさせる。それは抵抗しているというにはあまりに無駄の多い、むしろ自分の中の被虐感を楽しむための暴れ方に思えた。
 耕平は、振り上げた手を一瞬止めた。そしてわざと、狙いを外して振り下ろした。平手は、両脚の付け根の、アンナの女を直撃した。女の体がびくんっと大きく反る。
「あっ、ああああっ!」
 アンナは雌の叫び声を上げた。両手は無意識に乳房を抱き締めて、全身がぶるぶるぶるっと震えた。
 耕平は再びお尻攻撃に戻る。アンナは一打ちごとに身悶える。股間を直撃された衝撃は消えず残り、お尻から伝わってくる間接的な刺激がそれに重なっていく。アンナの片手が耕平の股間に伸びてくる。中が欲しくなってきた証拠だ。アンナの指先の意外に繊細な愛撫に、耕平の一物は忽ち固くなってきた。
「丸山! 縄を!」
 このままアンナの中に突っ込んでいきたい気持ちはやまやまなのだが、今は仕事が最優先だ。丸山に、予め教えてあった場所から縄を持ってこさせると、耕平はアンナの両腕を背中にねじ上げた。
「いや! いや、いや、いや。お願い、やめてえ」
 構わず耕平は、アンナを高手小手に縛り上げる。
「アンナ、お前にもっと気持ちいいことを教えてやるよ。力むな、アンナ。腕の力を抜くんだ」
「ああ、お願い。お願いだから……」
 アンナは額を床に押し付けるようにして、いやいやをした。
「お願いだから吊さないで」
 驚きのあまり、耕平の手が止まった。
 つ、吊す? 縛らないでじゃあなくて、吊さないで?
 耕平の頭にかっと血が上った。ひでえことをしやがる。アンナの親父はお尻を叩くだけでなく、アンナを縛り上げてどこかに吊していやがったんだ。そりゃあ、立派な児童虐待じゃないか。
「耕平さん、本当に吊すんですか?」
 丸山が、真顔で耕平に訊く。吊すったって、どこに吊せばいいんだ。縄を掛けるはりかぎもここにはない。第一、耕平のアパートの安普請でアンナのように体格のいい女を吊れば、天井が落ちてくる怖れさえある。
 だが、こうなったら後には引けない。耕平はやけくその声を上げた。
「お、おう! 吊すさ! 吊すともさ!」
「ど、どうやって吊るんですか?」
 だから、それが問題なのだ。耕平は悪い頭を必死で働かせながら、部屋の中を見回した。
 その時、耕平の頭の中でひらめいたものがあった。
(これだ!)
「丸山! すぐに戻ってくるから、それまでお前が、アンナのお尻を叩いていろ!」
「は、はい!」
「いいか? 絶対に休むんじゃないぞ!」
 そして耕平は、外へ飛び出していった。

 耕平が目指した先は、耕平の安アパートの斜め向かいに立っている高層マンションだった。そこの五階に、辻本社長のところのAV男優で、村田という男が住んでいるのだ。
「村田、ちょっと入るぞ!」
「あ、耕平……」
 挨拶もそこそこに、耕平は中に飛び込んだ。健康オタクの村田の家の中には、ありとあらゆる健康グッズが並んでいる。ルーム・ランナーもある。ムーン・ウォーカーもある。さらに奥に進むと、
「あった!」
 それは、すでにすっかり飽きられてしまって、衣紋掛けと化してしまったぶら下がり健康器だった。
「あっ、な、なにするんだよ!」
 洒落者で通っている村田は、ぶら下がり健康器に掛かっているジャケットやスーツを耕平がぽんぽん投げ捨てるのを見て悲鳴を上げた。構わず耕平は、掛かっていた服を全部外してしまう。
「村田! ちょっとこれ、借りるぞ!」
「借りるって、耕平!」
「明日返す! 必ず返す!」
 そして耕平は、あっけに取られて見ている村田を尻目に、外に飛び出していった。

 ぶら下がり健康器を担いだ耕平が、夜の町を走る。目指すは、縛られたアンナが責め続けられているはずの、自分のアパートだった。
(待っていろよ、アンナ。俺が吊してやるからな)
 最近運動不足の耕平の足は、早くもふらつき始めていた。

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