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「えっ? アンナちゃん、引退しちゃったんですか?」
 驚いたように、耕平が聞いた。辻本社長は、いかにも残念そうに頷いた。
「結婚するんだってさ。まあ、結婚は女の夢だからね」
「そうなんですか」
 耕平は、塩崎アンナとの最後の仕事を思い出した。

 耕平の仕込みでSMエヌジーが消えたアンナのSM路線の第一作目だ。残念ながら750ccのバイクで走り回る計画は、免許を取り損なって実現しなかったが、前半、バイクを乗り回して男たちを翻弄する女スナイパーが敵に捕まり、陵辱の限りを尽くされるという、大筋のストーリーは実現した。
 後半、アンナは、人気の無い工場跡地に連れ込まれ、紐パン一枚に剥がれて吊される。紐パンを残したのは、これを剥ぎ取る過程で、客をさらに興奮させようという意図なのだが、吊りにいったのは耕平のアドバイスに従ったのだ。
 さすが一流の縄師は違う。あの大柄なアンナが見事に宙を舞う。大股開きの人の字の姿勢のまま、アンナの体は斜めに固定されている。斜めというのは、上半身が低く、下半身を高く吊り上げているからだ。大きく開かれた両脚は斜め上に高く突き上げられているが、上半身はほぼ水平で、しかも頭を持ち上げた位置がちょうど男優の股間の位置にくる。今、アンナは、吊られた姿勢のままでフェラチオを強制されているところだった。
「むっ! むむうっ!」
 別の男優が、アンナのパンツの真ん中にバイブを当てる。スイッチを押すと、股間を襲うバイブレーションにアンナの腰が飛び上がるが、それ以上、逃げようがない。くねくねと腰を動かして、なんとか強烈な刺激から逃げようとするのだが、傍目には悩ましい腰振りダンスにしか見えない。その腰振りダンスの動きが口に咥えた男優のペニスに伝わる。あまり経験のない刺激に、男優もちょっと気持ちよさそうな顔になる。
 それにしても絵ヅラがすごい。アンナも筋肉質の大女だが、男たちもマッチョのキン肉マンばかりである。まさにそれは、肉と肉のぶつかり合いだった。
「ああああっ! だ、駄目えっ!」
 後ろの男優が、アンナのお尻をスパンキングする。お尻を叩かれると弱いという情報も、耕平が事前に伝えていたものだ。果たしてアンナは、咥えていたペニスを離して、激しく狼狽え、悶えた。
「どうだ! 参ったか! 俺達に逆らうと、こういう目に遭うんだよ。二度と舐めた真似ができないように、徹底的にいたぶってやるからそう思え!」 
「ああ、ごめんなさい。ごめんなさい」
 アンナは、本当に涙を流して許しを乞うた。男優たちはそんなアンナを代わる代わる犯した。犯されるアンナも、今までのビデオでは一度も見せなかった本気の乱れ方を見せ、悶絶した。
「ああっ、あはああっ! いく、また、いくううっ!」
 最後にアンナは全身をぶるぶると震わせながら、絶頂に達し、そのまま、気を失った。撮影が終わっても、あまりにすさまじいアンナの悶え振りに、スタッフの誰もが立ち尽くし、あっけにとられてアンナを見詰めていた。
 このビデオで、アンナの人気が再燃した。いや、以前のピーク以上の人気になり、アンナのシリーズは出せば売れるという状態になった。

 そんなアンナの人気は今も続いているのに、アンナは人気絶頂の中であっさりと引退してしまった。
「結婚か。まあ、それもいいですよね。この仕事、引き際が大事ですものね」
「まあねえ。人気者でいられる時間は短いからねえ」
「そうか。塩崎アンナは丸山達子になるんですね」
「丸山? 丸山って、誰?」
「え?」
 改めて、耕平は驚いた。てっきり、丸山の思いが伝わってアンナは丸山の下に戻った、ということだと思っていたのに。
「アンナちゃん、一体、誰と結婚するんです?」
「いやね。義理のお父さんが、アンナちゃんのビデオ見て、訪ねてきてね」
「義理のお父さん……」
「塩崎って、アンナちゃんの本当の苗字なんだよね。で、自分と同じ苗字の女優のビデオ見たら昔の娘が出てるってんで、お父さん、飛んできてさ」
「そうですか。よかったですね」
「え?」
「アンナちゃん、お父さんに見つけてほしくて、本当の苗字で出てたんですよ、きっと。」
「そうなんだろうね。で、すごくお父さんに怒られてさ。叩かれて、髪持って引きずられて。大喧嘩になったんだけど、とにかく、契約の残っている二本分だけ撮らせてもらって、で、引退ってことで」
「それで、結婚するんですか。義理のお父さんと」
「親子丼って奴だよね。スケベな親父だよ」
「結婚式に、母親も呼ぶんでしょうね」
「修羅場だよね」
「そうですね。絶対に、祝福はしてくれないでしょうね」
「絶対、しないね。俺もしない。もう、招待状もらったって、絶対に出席しない」
 辻本社長に招待状は送られてこないだろうと耕平は思ったが、口に出すのは止めた。
 それにしても、一途な娘だ。義理のお父さんに女の歓びを教えられ、そのお父さんをずっと思い続けていたんだ。お父さんに捨てられたと思って男を憎み、それでもお父さんに巡り会いたくてAVの仕事を選んだ。きっとアンナは、いや、達子は、この先ずっと義理のお父さん一筋に生きていくんだろう。他の男のことは見向きもせず、ずっと。
 丸山さん、かわいそうだな。
「どう、耕ちゃん? 今日、付き合う? アンナちゃんの結婚を祝してってことで、ぱあっと行こうか?」
「いや、今日はやめときます」
「あれえ? 付き合い悪いなあ、耕ちゃん。どうしたの?」
「いや、もっと自棄酒飲みたがっている友達が居るんで、今日はそいつを誘ってやります」
 耕平はポケットの中の携帯電話をこっそり握った。その中には、あの丸山の電話番号も書いてあるのだった。

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