次へ menu home



「いやあ、最近は、女子プロレスラーも、変わったよね」
 辻本社長は、新人のAV女優、キューティー水野の水着スチール写真撮影に立会いながら、鼻の下を伸ばしていた。
 水野は去年まで、現役の女子プロレスラーだった。人気も実力も超一流だった彼女だったが、試合で肩関節に致命的な傷を負い、引退を余儀無くされた。それを、例によって辻本社長が舌先三寸で口説き落とし、AVの世界に引き込んでしまったのである。
「昔の女子プロレスラーってさあ。体付きがごつい女が多かったんだよね。キューティーちゃんみたいに、すらっとして、ほっそりしている娘は、少なかったんだよね」
「まあ、今でも少ないとは思いますけどね」
 キューティー水野の付き人にされた耕平は、社長の会話に合わせて、そう言った。
 二人の言う通り、キューティー水野の体付きはとてもプロレスラーには見えない。高校時代まで合気道をしていたという彼女は、関節技を応用した投げ技、固め技を得意とし、また、小柄な体格を活かしたメキシカン・スタイルの空中殺法で一世を風靡したのだった。
 そんな彼女の体に、無駄な贅肉は一切付いていないが、必要以上の筋肉も付いていない。水着を着ればそのままモデルかアイドルで通用するような、美しいボディ・ラインを保っていた。
 だが、やはりプロレスを続けていくにはちょっと筋肉が足りなかったのだろう。ある試合で肩関節脱臼をしてしまった彼女は、その後も練習中に簡単に関節が外れてしまうようになってしまった。試合をしていく自信が無くなったということだろう。多くのファンに惜しまれながら、水野は現役を退いていった。
 AV出演の契約をするに当たり、水野はいくつかのNG項目を設定した。SMビデオも、その一つだった。
 耕平は、実は辻本社長のスパイだった。キューティー水野のようにSM、NGの女優の付き人となって接近し、隙を見てSMの味を覚え込ませて、SMビデオへの出演をOKさせてしまうのが、その仕事なのだ。
 それにしても、今回、耕平の気は重かった。
(元女子プロレスラーだもんなあ)
 基本的に耕平は、体育会系の女はMっ気があると思っている。厳しい練習で鍛えられて、自分の体を散々虐めて、疲れ切ってくたくたになった状態に爽快感を感じるというのは、それだけでマゾヒズムである。監督やコーチの厳しい指導に愛を感じるという感覚も、マゾヒスト独特の感覚と言っていい。極論すれば、運動部の練習それ自体が、調教みたいなものだと思っている。
 だが、プロレスは、まずい。プロレスに限らず、格闘技系の運動選手は勘弁してもらいたい。下手に手を出すと、こちらが逆にやられる可能性がある。鞭でシバいたりして、「痛えな、この野郎!」とか言って蹴りでも入れられた日には目も当てられない。
 日頃のキューティー水野は、女子プロレスラーとは思えないほど温厚で、大人しい。口数も少なく、どちらかというと内向的な方だと思う。この整った美しい顔でにこにこ笑っているところを見ていると、とても元プロレスラーとは思えない。
 だが、リングに上ると性格がガラッと変わるのだった。現役時代の試合を幾つも見てきた耕平は、小柄な水野が自分より頭一つ大きい相手選手を見事にマットに沈める展開を何度も見てきている。
 付き人として紹介された当日、耕平は水野にこう質問した。
「試合中、次はどの技を出そうとかいうのは、どうやって決めるの?」
「結構、条件反射ってことが多いんですよ。気が付いたら、体が動いていた、みたいな」
 ということは、縄掛けしようとして下手に動いて彼女の反射神経を刺激したら、次の瞬間、耕平は技を食らってひっくり返っていることになる。この言葉を聞いて、耕平は泣きたくなった。
(いやだなあ。女子プロレスラーの調教、やりたくないなあ)
 写真撮影を終えた水野に、辻本社長は何か仕切りに話し掛けている。時々は、自分で男優も兼ねたりする人だから、何かの作品でキューティー水野としっぽり濡れようなんて考えているのかもしれない。
「ねえ、キューティーちゃん。ヘッド・ロックって、あるじゃない。頭をこう、抱え込む奴」
「ええ、ありますね」
「あれ、ちょっと掛けてくれない? 一度、キューティーちゃんに、虐められてみたいなあ」
 そう言いながら、辻本社長は自分から頭を持っていった。後ろから水野の腋の下に頭を宛がうと、頭のてっ辺で水野の乳房を横からぐりぐりと刺激し始めた。
「ちょ、ちよっと社長、やめて下さい」
 初め、水野は、辻本社長のセクハラに当惑気味だった。だが、いつまでもしつこく絡んでくる辻本社長に、水野の目付きが厳しくなった。
(あ、水野さん、今、格闘家の顔になった)
 そして、キューティー水野の腕が、辻本社長の頭に巻き付いた。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁっ!」
 次の瞬間、社長が悲鳴を上げた。恥も外聞も無い、本気の悲鳴だった。
 社長は必死になって腕をばたつかせ、なんとか水野のヘッド・ロックから抜けようとする。だが、何か秘訣があるのだろう、社長がいくら藻掻いても、ヘッド・ロックは解けなかった。
 社長の顔色が、みるみるうちに真っ赤になっていく。辻本社長には高血圧の気がある。このままだと、血管が切れて死んでしまうかもしれない。耕平は慌てた。
「み、水野さん、それくらいで、もう」
「そうですか?」
 意外とあっさり、水野はヘッド・ロックを解いた。社長はそのまま床に倒れ伏して、しばらく起き上がってこなかった。見ると、社長の目から、涙がぽろぽろこぼれている。よほど、痛かったのだろう。
「どうです、社長? はたで見ているより、痛いでしょ?」
「うん、痛い。すごく痛い」
 目に見えてしょぼんと落ち込んでしまった社長は、涙を拭いながら訳の分からない挨拶をして、行ってしまった。別れ際、耕平の耳元に、
「じゃ、後のことは、耕平ちゃん、任せるから」
 と囁いていった。耕平は、不安そうな顔付きで社長を見送った。
「任せちゃうんですかぁ」
 そして、水野の顔を見る。さっきの、武闘家の表情は消え去り、いつもの温厚な、優しい表情に戻っている。
 この美しい顔がまた豹変して、自分に襲い掛かってくる場面を想像すると、耕平の背筋が寒くなる。
(やだなあ。調教、したくないなあ)

次へ menu home 風俗 デリヘル SMクラブ