前へ 次へ menu home



 倉庫のようなでかい建物の中に、リングや、色々なトレーニング道具が並んでいる。若い、筋肉質の女性たちが、トレーニングに勤しんでいる。
 ここは、キューティー水野が現役時代、所属していた団体のジムだ。調教のヒントをなんとか掴むために、現役時代の話を聞きにきたのだ。
 もちろん、キューティー水野にSMを仕込むためのヒントを下さいなどとは言わない。AVに出たことで昔の男関係でトラブルになることも多いので、その調査をしているというのが口実だった。
「そうかい。水野は、AV女優になったのかい」
 ガラス窓でジム・エリアと隔てられている事務所の中で、頭の禿げ上がった男が煙草をふかしながらそう言った。この中年男が、この団体の会長だ。
「なにもそこまで、身を落とさなくてもなあ」
 AV女優を馬鹿にした物言いをされて、耕平の隣に座っている山中恭子がむっとした。今日は仕事が無くて暇だという恭子は、冷やかしに無理矢理、耕平に付いてきたのだった。
「で、水野さんの彼氏のことなんですけど」
 何か言い出そうとする恭子を抑える形で、耕平は訊いた。
「居たよ」
「あ、やっぱりそうですよね。あの、美貌ですものね」
 今度は、キューティー水野を綺麗だと褒めた耕平のことを、恭子が睨む。今日の恭子は、ちょっと気が立っているかもしれない。
「女子プロレスラーってさ、男ができると駄目になっちゃうんだよね」
「え? そうなんですか?」
「怖くなっちゃうんだよ、怪我が。男が居ない時は大胆なことができてた娘が、男ができると身を庇っちゃうんだよね」
「はあ、なるほど」
「水野の怪我だってさ、普段のあいつならなんでもなかったはずなんだよ。身を、庇っちゃったんだよねえ。それで、身体の捌きがおかしくなって、それで変な落ち方しちゃったんだよねえ」
「そんなもんなんでしょうねえ」
「怪我を恐れて、それでかえって怪我しちゃったんだよ。皮肉なもんだよねえ」
「で、その男性とは」
「もう別れちゃったよ」
「振られたんですか?」
「いや、水野の方が愛想を尽かしてね。女癖も悪かったし、不実な男だったからね」
「そうですか」
「もう少し早く思い切っていりゃ、あんな怪我しなくて済んだのにさ。才能あったのに、惜しいよなあ」
 会長はもう一口、煙草の煙を吸い込むと、さらに一言、言い足した。
「そうすりゃ、AV女優なんかにもならずに済んだのに」
 ダメ押しに感情を逆撫でされた恭子が目を吊り上げて何か言おうとするのを抱きかかえるようにして、耕平は会長に挨拶を済ませ、ジムから出て行った。

 ジムを出てからも、恭子の機嫌は直らない。
「なによ、あのタコ。失礼だわ」
「まあ、世間一般のAVのイメージなんて、あんなもんだからな」
「で、どうなの? なにか、うまい手を思い付いたの?」
「ううん。そうだなあ。もし、別れた男ってのが、向こうから振られたんだったら、なんとかなったかもしれないけどな」
「どういうこと?」
「好きな男ができると、プロレスが怖くなるって言ってたじゃないか。だったら、別れた男に協力してもらって、水野のプロレス技を封じることもできそうじゃないか」
「なるほど。乱暴なところを見られて嫌われたらどうしようと思わせるのね」
「でも、水野の方から別れたんじゃなあ」
「女は、スパッと男を思い切っちゃうもんねえ」
「男が居たって、平気だよなあ」
「そうよねえ」
 耕平は、本当に困ったように黙り込む。恭子も悩んでいるような振りをしながら、そっと耕平の腕に腕を回してくる。
 耕平は、気付かない。
「ねえ、だったら、新しい人を好きにさせちゃおうか?」
「そんなに簡単にはいかないだろう」
「私ね、この間、キューティー水野さんと話したの。そしたらね」
 耕平の耳元に口を近付けるようにして、恭子は乳房を耕平の肘の辺りに押し付けていく。耕平は、それも気付かない。
「水野さん、まだいったこと無いんだって」
「えっ、そうなの?」
「女はさあ。初めていかせてくれた男って、好きになるものなんだから」
「なるほど。誰か床上手の男優を見方に付けて、水野に初めてのエクスタシーを経験させれば」
「その男の前で、プロレス技は使えなくなっちゃうかもしれないよ?」
「恭子!」
「あ」
 突然、耕平が恭子を抱き締める。恭子の顔に、素人の表情が浮かぶ。
「ありがとう、恭子! なんとかなりそうだ! おかげで、なんとかなりそうだよ!」
「本当にうまくいったら、お礼は高くつくわよ」
 欲情した目付きで、恭子が耕平に媚びる。
「分かってる。ちゃんとお礼はするから。ああ、良かった! 一時はどうなることかと思ってた!」
 心底嬉しそうに恭子を抱き締め続ける耕平の髪を、恭子は愛しそうに撫でていた。

前へ 次へ menu home 風俗 デリヘル SMクラブ