キューティー水野の初主演ビデオの撮影の日が来た。
もちろん、耕平の仕事が全く進んでいないのだから、これはSMビデオではない。普通の、アイドル系アダルト・ビデオだ。監督の女優インタビューがあって、イメージ映像を流して、それから濡れ場のシーンに突入するという、お決まりの構成だった。
ただ、登場女優が人気絶頂のまま引退していったキューティー水野ということで、広報サイドの期待度はそうとう高いらしい。現場の熱気と活気に、それが如実に表れている。
「ちょっと、耕平ちゃん」
監督インタビューを終えた辻本社長が、耕平に声を掛ける。
「なんですか?」
「なんですかじゃないよ。本当に大丈夫なんだろうね」
「はい。任せてください」
「よろしく頼むよ。本当に高いんだから。あの人」
そう言って、辻本社長はこっそり、今回の男優の道田修のことを覗き見る。
ベテラン男優、道田修は、まるで性の求道者のような男だ。男優は太いペニスをぎんぎんに勃起させて、激しくピストン運動させるのが仕事だとみんなが思っていた時代から、道田だけは女をいかせるリップ・テクニック、フィンガー・テクニックを鍛え続けてきた。ピストン運動にしても、女性器の中のスポットに当てるような腰使いを研究して、とにかく、女性をいかせるために工夫できるだけの工夫を、積み重ねてきた男だった。
その甲斐あって、道田修はいつか、AV女優を本気でいかせる男として有名になった。潮吹き職人とか、ガチンコ男優とかの異名を取る彼は、AV女優の中ではアイドル並みに人気がある。一度でも彼と仕事をした女優は決して彼のことを悪く言わないし、もう一度彼と仕事ができるのならギャラは要らないという女優さえ居る。
それほど、彼とのセックスは女心を蕩かす魅力に満ちているということだ。
だが、高い。道田修という名前自体がブランド価値を持ってしまった今、道田修のギャラは並の男優の倍以上する。女優のギャラよりも道田のギャラの方が高いなどということもある。
とても、辻本社長のビデオ会社に払えるようなギャラではないのだ。だからこれまで、辻本プロでは道田修を使ったビデオはほとんど制作されていない。そこを今回、耕平が無理に頼み込んでなんとか起用に漕ぎ着けたのだった。
キューティー水野を落とす作戦のためには、ぜひとも道田修の協力が必要だと思ったからだ。
すでに道田修には話を通してある。今日の段取り、その後の段取りも打ち合わせて、既に了承済みだった。
撮影の準備が整って、キューティー水野がソファーに座る。風呂上りにガウンを着込んだだけで、下はパンティ一枚の素っ裸である。パンティだけわざわざ穿かせたのは、それを脱がせるシーンに興奮する客が居るからだった。
アシスタント・ディレクターが道田にキューを入れる。これもガウン姿の道田修は、フレームに入っていく前に耕平に近付いてくる。
「じゃ、いくよ」
「道田さん、よろしくお願いします」
「なあに、要するに、いつもやってるようにやりゃ、いいんだろ?」
そして耕平にウインクすると、つかつかとキューティー水野に近付いていった。固定のビデオ・カメラが、二人の姿を映し出す。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
男優、道田修のあまりに当たり前過ぎる挨拶に、キューティー水野はかえって戸惑った様子で返事を返した。
構わず道田は話を続ける。このベテラン俳優の場合、前戯は既に会話の段階から始まっている。相手を和ませることで、より自然なプレイに入っていくことができるのだ。
カメラのフレームから外れた場所には、いつもより多くのギャラリーが集まっている。辻本社長が専属で使っている男優たちが、したがって道田修の撮影現場を見る機会などほとんど無い男優たちが、勉強のために休日を返上して見学に来ているのだ。初めての撮影なのにこんなにたくさんのギャラリーに囲まれてしまったキューティー水野は、ますます固くなっている。
だが、そこはさすがにベテランの貫禄である。適度にジョークを挟みながら、道田は次第に、水野の気持ちをリラックスさせていく。
「あれえ、元女子プロレスラーって聞いてたんだけど、その割には奇麗でかわいい手だよね」
「そうですか? ありがとうございます」
一度握った手を、道田は離さない。戸惑いを見せる水野だが、なんとなく、場の雰囲気が、恋人同士のような甘い雰囲気に変わっていく。
そしてとうとう、道田は水野にキスをした。
小鳥のついばみのようなキスを、二回、三回。そしてそれから、情熱的なディープ・キスに移行する。
長い、長い時間が流れる。
唇を離した時、明らかに水野の顔に戸惑いの色が見える。たかがキスで、どうしてこんなに感じるのだろうという顔をしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
続いて水野の耳に唇を這わせようとする道田を、水野が止めようとする。自分の身体の中に起きている急激な変化についていけない水野は、明らかにこれ以上の快感を怖れていた。
構わず道田はキスをする。あっと小さく声を上げて、水野は目を閉じる。水野の身体から、力が抜ける。
「すげえ」
撮影を見学している男優の一人の口から感嘆の声が上がった。
日頃、何人もの女優と撮影をしている男優たちだから、一目で分かる。唇にキスをして、耳を吸われただけで、キューティー水野は本気で感じ始めている。撮影用の演技など一切無しに、水野はもう、忘我の状態に入りかけていた。
水野の耳を吸いながら、道田はガウンを脱ぎ捨てる。ブリーフ一枚の引き締まった身体が現れる。
そして道田は次に、水野のガウンを脱がせにかかる。水野もまた、パンティ一枚の裸に剥かれる。道田に耳を吸われ続けながら、水野の腹筋は早くもぴくっ、ぴくっと痙攣し始めている。
耳を離れた道田の唇が、首筋を伝い、乳房に降りてくる。
「あああっ!」
乳首を口に含まれた水野は、大きく身体を反らせて悶える。道田は、ガムをくちゃくちゃ咬むようにして、水野の乳首を刺激する。
「ああっ! ああっ! あああっ! だ、駄目ぇ!」
「気持ちいいの? 水野ちゃん」
水野の頭が、こくりこくりと頷く。
「気持ち、いい。あああっ! 気持ちいいです」
「ほら、ここをこうされると、気持ちいいの?」
ああっ、と悶えて、水野の全身が震える。相変わらず、片方の手を道田に預けている水野は、空いているもう片方の手でシーツを握り締める。
「それとも、ほら、こうされた方が、気持ちいい?」
「や、いやぁ!」
シーツを掴む水野の手が、痙攣している。もしかすると水野は、すでに小さなエクスタシーを感じてしまっているかもしれない。
ようやく乳房を離れた道田の責めが、お腹と脇腹に移る。水野の身体をひっくり返して、背中とお尻に移る。さらにひっくり返して、足の指から太腿に移っていく。
愛撫される場所が変わる度に、水野は戸惑いの悲鳴を上げる。そしてやがて、歓喜の表情で一層激しく身悶える。水野はもうすっかり、道田のまな板に乗せられた鯉だった。
「よう、キューティー水野さんよ。随分、お楽しみじゃねえか」
フレームの外から、別の男優が入ってくる。これを水野が、足蹴り一発でベッドの外に蹴り倒してしまうという演出だった。キューティー水野のキャラクターを最大限に活かすための、辻本社長の発案だった。
だが、水野は悲しそうな顔で頭を振るばかりだった。道田の愛撫にすっかり欲情してしまった水野はもう、手足の力が萎え切っていて、出てきた男優を蹴り倒すなどという芸当は、とてもできない状態になっているのだ。蹴り倒されるはずだった男優は、次に何をしたらよいか分からなくて、立ち尽くしている。
代わりに道田が、男優の腰を思い切り蹴った。
「い、痛え!」
「馬鹿野郎! 手前えは引っ込んでろ! 俺の邪魔をするんじゃねえ!」
「す、すみません」
道田の助け舟に助けられた男優は、すごすごとフレームの外に消える。
泣きそうな顔をしたまま水野は、腕を道田の首に絡めていく。身も心も痺れるほどに感じさせてくれている上に、今また水野の失敗のフォーローまで入れてくれた。水野の潤んだ瞳は、すでに恋する少女の目になっている。
「うまくいきそうじゃない?」
いつの間にか耕平の横に立っている恭子が、耳元にそっと囁く。耕平は、道田のあまりに鮮やかな艶技に圧倒されて目を逸らす事もできないまま、頭を小さく縦に振った。
水野が、道田の唇にキスをする。
「うああっ!」
だが、すぐに頭を大きく後ろに反らせてしまう。水野の唇が道田の唇を捉えた瞬間、道田の指が、散々焦らせた水野の性器の入り口を撫でたのだ。
水野の頭が、いやいやをする。ちゃんとキスさせてと、道田に甘えている。
構わず、道田の頭が下がっていく。道田の唇が、既に露出し切っている水野のクリトリスを捉える。
水野の身体が、びんっと撥ねた。
「あ、ああああっ!」
後はもう、ひたすら舐め技である。水野は身体を震わせ、反らせ、捩り、悶えた。
それでも道田は、ひたすら舐め続けた。とうとう、水野は白旗を上げた。
「あああっ! いく、いくうっ! あはあっ!」
水野の身体ががくっ、がくっと大きく震えて、やがてぐったりと脱力した。
それでも道田は、責めを止めない。水野の膣の中に、突然、指をぐっと捻じ込んでいく。水野の身体が、苦しそうに震える。
「だ、駄目! 指を、入れないでぇ!」
「すごいよ、水野ちゃん。濡れてるよ。ほら、こんなに」
「う、動かさないで! ゆ、指を、止めてぇ!」
なにしろ、いったばかりで過敏になっている膣の中を道田の巧みな愛撫で責められるのである。それがどれほど強烈な快感なのか、女ならざる耕平にも、薄々想像は付いた。
女である恭子なら、なおさらである。恭子は無意識に耕平の腕にしがみ付き、爪を立てるようにぎゅっとしがみ付いている。
そう言えば恭子は、よその会社のビデオで道田と共演しているはずだ。もしかすると、恭子はその時のことを思い出しているのだろうか?
「あああっ! あ、あはあっ!」
道田の指の動きが、暴力的な速さに変わっていく。水野はもう何もできない状態で、道田に弄ばれるままである。
水野の股間のくちゅくちゅくちゅという音が、だんだん大きくなってくる。水野の膣の中が、既に愛液で一杯になっている証拠である。
それでも、道田は指を止めない。
「あああっ! す、すごい! い、いきそう! も、もういくぅっ! ああ、すごぉい! すごおい!」
「うおおっ!」
突然、道田が指を引き抜いた。絶頂を迎えて痙攣する水野の股間から、噴水のように愛液が噴き出してくる。
場の空気が、凍り付いている。あまりに鮮やかな性の伝道師、道田の性技に誰もが感動し、一種、荘厳な気持ちにさえなっているのである。
キューティー水野だけが、深い絶頂の余韻にどっぷりと浸かりながら、荒い息を吐き続けている。
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