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 数日後、耕平はキューティー水野を会社のスタジオに連れて行った。水野を安心させるために、悪友の山中恭子にも付き合ってもらった。
 そこは、ワン・フロアー事務所に借り切っている辻本プロの一番奥まった部屋で、ベッドも設えてあって、簡単な撮影ならそこでできるようになっている。耕平はここで、水野を調教してしまうつもりだ。
「ここで、見るんですか?」
「ああ。事務所の中にもモニターはあるんだけど、社員の目も気になるしね。水野さんも、自分の裸が映っているビデオ、みんなの前でチェックするの、嫌でしょ?」
 今日の口実は、先日撮影したビデオのラフが完成したので、それを見てみようということだった。初めての撮影だったので、今後の参考に一応見て勉強してみる方がいいと言って、彼女を説得したのだ。
 広い空間の中央にベッドが、部屋の端の方に応接セットが設えてある。ビデオ・デッキやモニターは、この応接セットの横にあった。三人は、用意した缶ビールや珍味の袋を広げる。ちょっと酒でも飲みながらという趣向だ。
 女性にとって、酒は媚薬である。これも、水野の拒絶反応を和らげるための仕掛けの一つだ。
「じゃあ、始めるね」
 デッキの中にビデオ・テープをセットして再生する。ベッドの端に座っている、キューティー水野と道田修が映し出される。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
 最初の挨拶から始まって、道田のキスに戸惑う水野、耳を舐められ、肩を震わせる水野、乳房を揉まれて、だんだん我を忘れていく水野が克明に撮影されている。
「水野さん、この表情、すごくいいわよね」
「ありがとうございます」
 恭子が批評めいたことを口にするのは、水野の意識をしっかり画面に固定させるためだ。この辺り、今までも何度か耕平の仕事を手伝っている恭子とは、息がぴったりと合う。
 果たして、水野はすでに顔を上気させている。先日の撮影で受けた愛撫の一つ一つを、体が思い出し始めている証拠だ。
 無意識に、ぺろっと唇を舐める。生唾を呑む。はっと、息を呑む。乳房を庇うように、手を動かす。水野の動きの一つ一つが、彼女が興奮し始めていることを示している。
 耕平も恭子も、それに気付かない振りをしている。気付いていない証明をしているつもりで、何かと水野に話しかける。
「あ、ここで体をびくっと震わせてるじゃない。これ、本当に感じてるの?」
 水野はますます顔を赤らめて、恥ずかしそうに頷く。
「はい。気持ちよかったです」
「道田さん、上手だもんねえ」
「あれ? 恭子ちゃん、道田さんと共演したこと、あるの?」
「何遍もあるわよ。道田さんに愛撫されると、本当に、その度にいかされちゃうのよね」
 水野が、えっ? という顔をする。その時に浮かんだ微妙な表情の中に、嫉妬の感情が含まれていることを、耕平は見逃さなかった。
「ああああっ!」
 いよいよ、潮吹きのシーンに入る。水野の膣の中をゆっくりと愛撫していた道田の指が、暴力的に激しく、動き始める。水野の全身が反り返って、痙攣する。叫び声を上げる。足の指先まで力みが入って、がくがくと震え始める。
「すごい、悩ましい声出すよね。色っぽいよね」
「いやだ、耕平さん、聞かないで下さい。恥ずかしい」
「なに言ってるのよ」
 先輩の恭子が、水野を叱るような口調で言った。
「喘ぎ声はね、私たちの商売道具なの。いやらしい大きな声が出せるのは、AV女優としての才能の一つなのよ。水野さん、もっと、自信持たなくちゃ」
「あ、ありがとうございます」
 こういうところが、恭子は実にうまい。今、叱られたことで、水野は自分の喘ぎ声に耳を塞げなくなってしまった。自分の悶える姿、思わず出てしまった大きな声を、しっかり見詰め、しっかり聞かざるをえなくなってしまった。
 それが、どれほど、水野の気持ちを高ぶらせるものであったとしても。
「あああっ! す、すごい! い、いきそう! も、もういくぅっ! ああ、すごぉい! すごおい!」
 水野の身も世も無い叫び声が、深閑とした部屋の中に響く。それを聞かされている水野は、ますます顔を赤らめていく。気が付くと、水野は肩で息をしていた。既に水野は、呼吸を整えることができなくなっていた。
 道田の指の動きに押されて、水野の愛液が飛び散り始めた。わざわざそういう位置に構えていたカメラのレンズに、水野の愛液の水滴が飛ぶ。雨が降り始めた時の車のフロント・ガラスのように、画面にぽつぽつと、水が飛び始める。
「目を伏せちゃ駄目!」
 恥ずかしさの余り、顔を手で覆ってしまった水野の手を、恭子が引き剥がす。
「しっかり見ておくのよ。これが、私たちの仕事なんだから!」
「は、はい」
 答えた水野の目は、涙目になっていた。いや、欲情のあまり、目が潤んできていた。
 道田が指を引き抜く。絶頂を迎えて痙攣する水野の股間から、噴水のように愛液が噴き出してくる。カメラのレンズがあっという間に愛液まみれになって、ほとんど何も見えなくなってしまった。
 別のカメラに切り替わると、道田が水野を抱き起こしているところだった。水野を膝立ちにさせると、道田は水野の頭を、自分の股間に引き付けた。
 まだ絶頂の余韻から醒めていない水野は、虚ろな目をしたまま道田の股間のものを口に咥え、ちゅぱちゅぱと吸い始めた。
「水野さん、フェラチオは苦手って言ってたよね。この時も、いやだったの?」
「よく覚えてないんです」
 だが、見れば分かる。道田のそれを舐めながら、水野は明らかに欲情している。そして、自分が欲情している画面を見ながら、ここにいる水野自身も欲情していた。
 水野を再びベッドに横たえ、道田がペニスを水野の入り口に宛がう。ほんの少しの間、道田がフレームから消えたのは、その間に手早くコンドームを装着したのだ。
 そして、道田はぐっと腰を押し出す。その瞬間、水野の背中に電気が走る。
「あああっ! だ、駄目ぇ!」
 耕平が、何度も目にしてきた風景だ。一度潮を噴かされた女の興奮はなかなか醒めず、ペニスを挿れられた瞬間の快感の深さに、これを初めて経験した女優はみんな戸惑い、身を打ち震わせるのだ。
「駄目、動かさないで! ああ、動かしちゃ、駄目ぇ!」
 水野は上半身を打ち震わせながら、身悶えする。だが、上半身がどんなに踊っても、道田に刺し貫かれた腰を動かさないのは、水野の体がさらに強烈な快感を求めているからだ。
 それが分かっている道田は、どんなに水野に哀願されても、腰の動きを止めない。
 水野の目に、涙が滲む。喘ぎ声も、今はほとんど絶叫に近い。上半身の動きは、そう、現役時代、相手に四の字固めを決められた時の動きに似ている。相手に救いを求めるように両手を伸ばしていったり、髪を掻き毟って激しく頭を振りたくったり、上半身を大きく反らせて何かに耐えたり、水野は一刻としてじっとしていられなかった。
 画面を見ている水野の片手が、胸に伸びる。乳房を庇っているように見せて、そっと指を食い込ませているのが分かる。もう一方の手は太腿の付け根に置かれているが、これも指に力が入り、内股の肉を掴んでいる。
 水野は、すっかり欲情してしまっている。今、耕平と恭子が席を立ったならば、水野は迷わず自慰を始めるに違いない。今の水野は、もうそんな状態になっている。
(そろそろだな)
 耕平はポケットに手を突っ込むと、携帯電話を探る。予め発信先を表示している状態にしておいたそれの発信ボタンを指先で探り、それをそっと押す。ほんの一、二秒だけコールして、それを切る。
 それは、登場の合図だった。
「やあ、こんなところで勉強会?」
「あ、道田さん、いらしてたんですか」
「次回の作品の打ち合わせでね、ちょっと寄ってみたんだよ」
 突然現れた道田に、水野は明らかに動揺した。これも耕平の仕掛けた罠であることも知らず、水野は顔を真っ赤にして言葉を失っていた。
 実は、道田には予め、社内にスタンバイしてもらっていたのだ。別の応接室で待機してもらっていた道田は、耕平のワン切りを合図に、このスタジオに入ってきたのだ。
 もちろん、その後の手順も、しっかり耕平と打ち合わせてあった。
「お、ビールもあるじゃない。ちょっと、参加させてもらっていい?」
 当たり前のように、道田は水野の隣りに座った。水野はすっかり狼狽えているが、それを落ち着かせようとでもするように、道田は水野の手を握って笑い掛けた。
「すごいじゃない、水野さん。いい表情してるよ。いいなあ」
「あ、ありがとうございます」
 画面の中の水野は、今まさに絶頂を迎えようとしているところだった。百二十度に開かれた脚は指先まで力が入ってバレリーナのように伸び切り、両手はシーツを握り締めている。頭を大きく反らせて、口は窒息寸前の金魚のようにぱくぱくと喘いでいる。
「あああっ! いくっ! もう駄目、いくっ! いくぅ!」
 そして、がくっと力が抜けた。ぐったりとベッドに沈み込んだ水野の体の胸だけが、荒い息を繰り返している。
 画面を見ながら、水野はそっと道田の肩に頭を乗せた。そして、キスをねだるように道田の方に顔を向けた。
 道田は気付かない振りをしている。食い入るように画面を見詰めながら、耕平からの次の合図を待っていた。

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