「え? 水野さん、SMは駄目なの?」
道田が、驚いたように水野に訊く。もちろん、これも耕平の書いたシナリオ通りの行動である。
キューティー水野が、こくりと頷く。
「なにか、ああいうのって、不自然な気がして」
しゃべっている間も、水野は道田の目を全然見ない。もう、道田と視線を合わせること自体が、恥ずかしいという状態になってしまっていた。
「まあ、普通に考えれば変態だけどね。でも、この仕事やってるからには普通でしょ?」
「そうなんですか?」
「そうよ。馬鹿ね」
恭子が横から口を挟む。さっきから、恭子に叱られてはしゅんとしていた水野である。その恭子からそう言われると、それ以上反論できない。
「女子プロだってさ、これできませんって、いつまでも通用しないよね」
「はい」
「まあ、一時の小遣い稼ぎのつもりなら、ちょこちょこっとできることだけして引退すればいいんだけど、少しでも息長くやっていくつもりなら、こういうのも、できた方がいいよね」
「はい」
「今日、ちょっとだけ試してみようか」
さすがに水野も、驚いたように道田の目を見る。
「だ、駄目です。本当に、駄目なんです」
「まあ、最初から本格的なSMも無理だよね。今日は、ほんの形だけだから、一度体験してごらん」
「それも無理です。お願い、許してください」
「耕平、縄出してよ」
「あ、はい。縄ですね」
形だけと言いながら、耕平が取り出したのは本格的な麻縄だった。目の前にどさっと大量の縄束を置かれて、水野がすうっと引いていくのが分かる。
道田が立ち上がる。縄を一束取り上げると、それを解して縒りを戻していく。
「本当に、許してください。本当に、ごめんなさい」
もちろん、耕平は、この時点で水野を縛り上げるつもりなど無かった。抵抗してプロレス技を使ってくる可能性をすっかり消してしまうまで、事は慎重に進めなければならない。
道田は、次のセリフを口にする。
「まあ、なにをされるか分からないで、いきなり縛るって言っても怖いよね。恭子ちゃん、ちょっとモデルになってよ」
「いいわよ」
恭子はあっさり承諾して道田に背中を向け、両手を後ろに組んだ。取り残された形で水野は、どんな表情をしていればよいかも分からずに呆然と見ている。
そして次第に、水野の顔からさっきまでの警戒心が消えていく。代わりに浮かんできたのは、微かな嫉妬の感情であった。
道田は縛りながら、さり気無く恭子とスキンシップを取っていく。胸縄を回す時に抱き締めるようにしたり、ぐっと縄を締めながらお乳を擽ったりと、恭子の体に色々悪戯を仕掛けていく。その度に水野の表情は、複雑なものに変わっていく。極め付けは、恭子が自分の方から道田の唇を求めていき、道田がそれに応じた時だった。
「これが高手小手と言って、まあ、一番基本的な縛り方。恭子、苦しい?」
恭子は黙って、ううん、と頭を横に振り、そして道田の唇を求めていった。道田が応じる。熱烈なディープキスに恭子の下半身が悶え、心地よさそうな呻き声を上げる。水野は俯いてしまう。私、どうしてここに居るんだろうという顔になる。
「SMっていうと痛かったり熱かったりを想像するんだけど、基本は羞恥プレイなんだよ。分かる? こんなことされて恥ずかしい、こんなこと言われて恥ずかしいっていうのが、基本。例えばね」
そして恭子のブラウスのボタンを、一つ一つ外していく。恭子は切なそうに横を向く。
全てのボタンを外し終わると、道田はそれを一気に横に押し広げる。ブラジャーだけで後は何も身に着けていない、恭子の素肌が現れる。ああっと悲鳴を上げて、恭子は甘えたように道田の体に寄り掛かっていく。
今の恭子の動きは演技ではない。元々そちらの気がある恭子は、本気で感じ始めていた。
恭子の本気を、水野も感じ取っている。だから水野の嫉妬の表情も、一段と強いものになっていく。
「水野さん、ちょっと来て」
水野がいやいやをする。このいやいやは、さっきのような警戒心、拒絶感からくるいやいやではない。水野の前で恭子を愛してやるところを見せ付ける、残酷な道田に反抗してみせているのだ。
道田はいったん恭子の体から離れ、水野の後ろに回りこんでいく。水野は道田から逃れるように体を動かすが、それが本気でないのは、簡単に道田に肩を掴ませてしまったことで分かる。
道田は、後ろから水野の両肩を掴み、前に押し出していこうとする。水野はそれに抵抗している。
水野の耳を、道田の唇が塞ぐ。水野の体がぴくっと動いて、少し抵抗感が弱まる。
「さあ、水野さん。恭子ちゃんの乳首に、キスしてあげて」
ああっ、と声を上げたのは、道田に乳首を吸われた時の感触を思い出したのだろう。水野の抵抗はさらに弱まり、だんだん前に、体を押し出されていく。
それでも水野は、いやいやを繰り返す。
「駄目。そんなこと、させないで下さい」
これは、抵抗でさえない。もっと道田に話をしてほしいのだ。もっと耳の中に、熱い息を吹き掛けてほしいのだ。耳元で、甘く囁いてほしいのだ。
「舐めてあげてよ、水野さん。お願いだから」
「駄目です。駄目」
「水野さんはきっと、舐めてあげるよ。だって水野さんは優しい子だもの。ほら、恭子ちゃんを見てごらん。あんなに切なそうに、水野さんのキスを待ってるんだよ」
「駄目。いや」
「キスして、水野さん。キス」
「駄目。駄目。駄目」
「キスして。お願い。キス。キス。キス」
「ああ、いや。駄目」
そう言いながら、キューティー水野の唇はもう、恭子の乳首のすぐ前まで来ていた。最後の瞬間、道田は水野の頭の後ろを片手でぐっと掴み、前に押し出した。あっと声を上げながら、水野の顔が恭子の乳房に押し付けられる。次の瞬間、水野はもう、恭子の乳首をちゅぱちゅぱと吸い、舌を絡め始めている。恭子が身震いして、悲鳴を上げた。散々焦らされた上に、女の急所を知っている女の責めに、簡単に屈服させられたのだ。
「すごいよ、水野さん。すごい、いやらしいキスだ。もっと吸って。もっと、恭子ちゃんの乳首をべちょべちょにして。もっと。もっと」
道田は水野の耳元で、ずっと囁き続けている。頭を押し付けた手も、添えられたままである。
その状態で、道田は少しずつ体をずらしていき、恭子の首に腕を回すと、反対側の乳房をやんわりと掴む。恭子がまた、切なそうに呻く。
道田は得意の指技で、恭子の乳房を、乳首を、刺激する。恭子の喘ぎは一層切羽詰ったものになる。
水野は、道田の愛撫の指が気になって仕方が無いようだ。恭子の乳首を必死で舐めながら、チラチラと道田の手の動きを盗み見ている。
(思い出せ、水野さん)
道田の愛撫の感触を、思い出せと、耕平は胸の中で叫ぶ。
そして耕平の思惑通り、水野さんは道田に乳房を弄ばれた感触を思い出しているようだ。水野さんの目付きが、だんだんトロンとしたものになってくる。腰の位置をずらして、頻りに道田の腰に押し付けていく。ほんの僅かでも、道田とのスキンシップを求めたい、女心である。
道田に耳元で囁かれ、耳の穴の中に熱い息を吹き掛けられ、恭子の乳房を舐めさせられ、その刺激に悶える恭子の体の揺れを感じ、喘ぎ声を聞かされ、そして目の前で、覚えのある指技で恭子の乳房が弄ばれるのを見させられる。
これで体が熱くなってこなければ、女ではない。しかも水野の体は、さっきまで自分のビデオを散々見させられて、その余韻が去らずに残っている状態なのだ。
そして道田は、とうとう最後の言葉を口にした。
「水野さん、両手を背中に回して」
水野はいやいやをする。だが、恭子の乳首に対する愛撫はやめない。
「両手を後ろに回すんだよ、水野さん。後ろに」
水野は、いやいやをする。道田は、水野さんの耳朶を軽く咬む。乳房で塞がれた口の奥から、水野さんのくぐもった喘ぎ声が聞こえる。
「後ろに回すんだよ、水野さん。腕を、後ろに」
水野がいやいやをする。道田の舌が水野の耳の中に進入していく。水野さんの腰が震える。思わず、恭子の乳房から唇を離して、声を上げようとするのだが、道田の手がそれを許さない。
「うふうっ! うううっ!」
「両手を後ろに回して。水野さん、両手を後ろに」
「うううっ! ぐぐっ! うふうっ」
「後ろに手を回すんだよ、水野さん。さあ、手を回して」
水野さんの眉間に、切なそうな縦皺が寄る。
そして両手が、ゆっくりと背中に回り、クロスした。
(やった!)
耕平は縄の束を一つ掴むと、急いで水野さんの背中に回り込み、手首に縄を掛ける。
「痛くないように縛るからね。水野さん、少しだけ、じっとしていてね」
胸縄を絞り込む瞬間、水野さんはほんのちょっとだけ、うっと呻いた。そして欲情した濡れた目付きで、これでいいの? という目線を、道田に送った。
それに応えるように、道田は手首の回転を使って、水野の頭をゆっくりと揺らし始める。水野はうっとりと目を閉じて、道田にされるがまま、耕平にされるがままになっている。
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