前へ 次へ menu home



「ささ、どんどん飲んでよ」
 耕平は、安い居酒屋で若い男と二人で酒を飲んでいる。耕平も貧乏だが、相手の男はもっと金が無いらしい。ただ酒と聞いて、本当に嬉しそうに飲んでいる。
 痛い出費を覚悟して、男に酒を奢っているのには訳がある。この男は、奈々美をスカウトしてきたスカウト・マンなのだ。男に話を聞けば、何か糸口が掴めるかもしれない。そういう縋るような思いで、耕平は男の話を聞いているのだった。
「奈々美ちゃんっすか」
「そう、奈々美ちゃんだよ。何か知ってる?」
「あの子、育ち良さそうっすよね。よくこんな業界に飛び込んできたなあ」
「それだよ。奈々美ちゃん、なんでこの業界に入ってきたのかな」
「だからそれは、僕が声掛けたからでしょ?」
「そうじゃないよ。声掛けられたって、普通断るじゃない。なぜ断らなかったのかなあ」
「断ってましたよ、何度も」
「そうじゃないだろ。誰だって最初は断るんだよ。でも、断り続ける子と、最終的に受けちゃう子と居る訳じゃない。受けちゃう子は受けちゃう子なりの、理由があるんだよ」
「理由? なんの理由っすか?」
 耕平は馬鹿馬鹿しくなってきた。男が、本当に何も考えていないことにあきれてしまったのだ。この男が、何か耕平の役に立つ情報に気が付いて覚えているなんてことは、ちょっと期待できそうになかった。
「あいつは馬鹿だからなあ」
 スカウト・マンの仲間はみんな、彼のことをそう言う。
 とにかく、スカウトも、何日もやっていると目が肥えてくるものなのだ。AVに出てくれそうな女の子も、なんとなく見分けが付いてくる。もちろん、百発百中とはいかないが、最初、一人獲得するのに百人に声を掛けていた人間が、五十人に一人、二十人に一人、十人に一人と、だんだん確率を上げていくものなのだ。
 ところが、目の前の若い男は、入社してもう二年近くも経つのに、いまだに百人に声を掛けないと一人獲得できない。そういう見極めができないタイプなのだ。とにかく、他のスカウトが見てあの子は絶対に無理だという子に、臆面も無く声を掛けていく。そして断られる。彼はいまだに、それを繰り返しているのだ。
 そんな無能な、非効率的なスカウトをなぜ首にしないかと言うと、時々、びっくりするようなビック・ヒットを飛ばすからだ。他のスカウトなら声を掛ける前に諦めてしまうようなタイプに声を掛けて、結果、OKをもらってしまうということが、稀にある。そのまぐれ当たりへの期待だけで、彼は今もスカウトとして使ってもらっているのだ。
 奈々美もそんな子の中の一人だった。彼が奈々美を事務所に連れてきた時、スカウト仲間はみんな驚いた。こんな子がAVに出る決心をしたということも驚きだったが、そもそも二年もスカウトをして、もうベテランに近くなっているスカウト・マンが、こんなあり得ないタイプに声を掛けたということ自体、驚きだったのだ。
「最初は奈々美ちゃん、嫌がってましたよねえ」
 そりゃそうだ。嫌がる。それも、本気で嫌がる。それが分かっているから、他のスカウト・マンは奈々美ちゃんのようなタイプに声を掛けない。
「とにかく、目に涙まで浮かべてるんですよ。参っちゃった」
「で、目に涙まで浮かべている子に、君はどれくらい粘ったの?」 
「さあ。一時間くらいかな」
 ある意味、それはこの男の才能と言ってよい。普通なら、見込みの薄い子に一時間も粘ったりはしない。その間に、別の子に声を掛けた方が確実だからだ。
(一時間掛けられたら、根負けするよなあ)
 例の絶叫マシンの時もそうだった。あれほど嫌がっていた菜々美が、最後は耕平に根負けしてジェット・コースターに乗ったのだ。とにかく、強く迫られると拒み切れないタイプなのだ。
(そういうところは、マゾなんだけどなあ)
 マゾでないタイプなら、しつこく迫られたら怒りだすか、逃げ出すかする。どちらもしないで最後まで付き合い、そして最後には押し切られてしまう。そういうところは典型的なマゾ・タイプだった。
 だが、押し切られて乗っても、絶叫マシンには馴染めなかった。でも、AVには馴染めたようで、もう出演作品も四本目になる。
「ああっ!」
「な、なんです? どうかしたんですか?」
 突然、頭を抱えて悶え始めた耕平に驚いて、男は言った。
「なんでもない。なんでもないんだ」
 絶叫マシンは駄目だが、AVはOK。
 そこに何かがありそうなのだが、その何かが何か分からない。分からないから、悶えるしかないのだった。
「ああ、もう少しなんだけどなあ!」
 耕平は、切なげに絶叫していた。

前へ 次へ menu home 風俗 デリヘル SMクラブ