前へ 次へ menu home



 結局、耕平は奈々美ちゃん本人に訊いてみることにした。
 日頃は酒を飲まない奈々美ちゃんだが、今日は新しいAV作品のクランク・アップの日とあって、他のスタッフと一緒に耕平の馴染みの酒場に顔を出していた。
 耕平は、さり気無い調子でこう切り出す。
「それにしても、奈々美ちゃん、なんでこの業界に入ってきたのかなあ」
「え? どうしてですか?」
「だって、みんな不思議に思っているよ。奈々美ちゃんってさあ。あまり、こういう世界に居るタイプじゃないから」
「だって、スカウトの人があんまりしつこいから」
「そうか。しつこく勧誘されて、断りきれなかったんだね」
「そうですよ」
 駄目か、と耕平は思う。奈々美の様子から見て、特に何かを隠しているようにも思えない。どうやら奈々美本人も、自分がこの業界に入ってきた理由を分かっていないのだ。
(どうすりゃいいのかなあ)
 耕平の周りでは、仲間が馬鹿騒ぎを続けている。奈々美も、誰かの冗談に噴き出したりして、場は十分に盛り上がっている。耕平だけが、一人沈んでいるのだった。
 と、奈々美が突然、こう口にした。
「私、この仕事を始めてすごくよかったと思ってます」
「え? 何で?」
「私ね、男の人と付き合うのが、苦手だったんです」
 奈々美は少し俯き加減になって話を続けた。
「好きな人に抱かれたいと思っても、自分から積極的に出ることができないんです。相手の人から誘われても、すごく嬉しいのに駄目って言ったりして。で、あんまり強く拒否しすぎて相手の人の方が諦めちゃったりして。だから私、初体験もすごく遅かったし、デビューするまでに、男性経験一人しか居なかったんです」
「へえ、そうなの。でもそういう子って、少なくないんじゃない?」
「恥ずかしいですよ。男性経験一人なんて」
「そうなのかな」
「そうですよ」
「俺は、そういうのも悪くないって思うけどなあ」 
「きっと、それがあったから、この仕事を始めたんだと思うんです」
「え?」
「なんか、うじうじしている自分が嫌だったんです。こういう仕事をしたら、そんな自分が変えられるかなと思って」
 頭の中で、何かがぴんと弾けた。耕平は、これだと思った。
 普通、そんな理由で業界に飛び込んでくる子は居ない。もし本当にそれが理由だったとしたら、菜々美の性欲はそうとうに強い。
 うちに強い性欲の嵐を抱えながら、引っ込み思案の性格のためにそれを外に出すことができない。そんな自分を変えようとして、菜々美はこの業界に飛び込んできたのだ。
「で、今は変われたの?」
「ええ。昔に比べれば、随分積極的になれるようになれました」
 嘘だ、と耕平は思う。奈々美はデビュー当時から変わっていない。引っ込み思案の性格だって、以前のままだ。
 ただ、男優に抱かれる機会が増えて、欲求不満は解消されているかもしれない。だから自分では、以前と違った自分になれているような気がしているだけだ。
 でも、ビデオの外で誰かに昂奮したらどうなるだろう。やはり菜々美は、自分の欲望を外に出せなくて、悶々とするのではないだろうか。
 ここが、奈々美の責めどころだ。自分の欲望に正直になれない分、SM的なシチュエーションで無理矢理淫らな自分を引き出されることは、嫌ではないはずた。
「奈々美ちゃん!」
「ああ、びっくりした。何ですか、急に?」
 突然明るくなった耕平に戸惑いながら、菜々美は耕平に目を向ける。
「乾杯しよう、乾杯!」
「あ、はい」
 あいかわらずのはしゃぎようで、耕平は奈々美とグラスを合わせた。

前へ 次へ menu home 風俗 デリヘル SMクラブ