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 数日後、耕平と菜々美はまた、二人で居酒屋に飲みに行った。基本的に真面目人間の奈々美ちゃんだが、居酒屋の雰囲気は嫌いではないみたいで、酒の誘いはあまり断らないタイプなのだ。
 ただ、奈々美ちゃんはあまり酔わない。酒の量もそんなに多くないし、いわゆる殺して飲む酒で、酩酊している奈々美ちゃんを見ることはまずない。少しいつもよりも陽気になるかなという程度の酒なのだった。
「どうしたんですか? 岸田さん」
「え? 何が?」
「何がって、今日はなんだか落ち着かないみたいじゃないですか。さっきから、そわそわして」
「そうかな」
「そうですよ」
 実はそうなのだった。今日、耕平はある仕込みをしている。その仕込みがうまくいくかどうか、まだ不安があったので、それが態度に出てきてしまうのだった。
「耕平さん」
 突然、後ろから声を掛けられる。やってきたのは、木下啓二という名のアシスタント・ディレクターである。
 アシスタント・ディレクターというのは、一言で言って現場の雑用係りだ。それはどこの世界でもそうなのだが、少人数で撮影されるAVの現場の場合、一般のADよりも撮影に近い仕事を任される可能性が高い。
 彼も、学生時代にクラブで自主制作映画などを撮影し、未来の映画監督を夢見ている若者の一人だ。ほんの小遣い稼ぎのつもりで参加したAV撮影だったが、他の現場よりも実践的な知識を学ぶことができるということで、いつの間にか正社員になってしまった男だ。
 今は彼も、一般の映画の監督は諦めてしまっているらしい。だが、いつか、AV作品かエロ映画の監督で、プロデビューすることを今も目指しているらしい。
 なぜそんな彼をわざわざ呼んだのか?
 奈々美ちゃんが、この男のことを悪からず思っていることを、うすうす感じていたからだ。
 案の定、啓二が来たとたんに、奈々美ちゃんの態度が変わった。さっきまであんなにはしゃいでいた子が、俯いてしまって、何も言えなくなったしまった。
「啓二、そっちに行きなよ」
 耕平は、奈々美ちゃんを挟んで反対側の席に啓二を座らせた。男二人に挟まれて、奈々美ちゃんがすごく緊張し始めているのが分かる。
 もちろん、耕平に対して緊張しているわけではない。啓二に対してだ。啓二と並んで話をすることを、奈々美ちゃんはすごく意識してしまっているのだ。
「啓二、今日の撮影、いい感じだったよね」
「そうでしょ? 僕も見ていて、本当に昂奮しちゃいましたよ」
 ろくに話もできなくなってしまった奈々美ちゃんを放っておいて、耕平は啓二と話を始める。奈々美ちゃんは黙って、二人の話を聞いている。時々、気を使って、啓二が奈々美ちゃんに話を振るのだが、奈々美ちゃんはうまく受け答えができないみたいで、話はすぐに途切れてしまうのだった。
「あの、私はこれで」 
 緊張感に耐えられなくなってきたのだろう、奈々美ちゃんが席を立とうとする。
「あれ? もう行っちゃうの?」
「ええ、明日も、撮影ですし」
「撮影ったって、午後からじゃない。まだ大丈夫だよ。もう少し飲んでいきなよ」
「でも、私、やっぱり」
「いいから座りなよ」
 言いながら耕平は、奈々美ちゃんの太腿の上に手を置いて、押さえ付けた。こんな親父のセクハラみたいなことは好みではないのだが、これも作戦だ。
「そうだよ。もう少し居なよ」
 啓二も耕平の真似をして、奈々美ちゃんの反対側の太腿に手を置いて押さえ付ける。
 奈々美ちゃんが、はっと息を呑む。そしてそのまま、動けなくなってしまう。
「あの新人の女の子さ。最初はダイコンだなって思ってたんだけど、なかなかやるよね」
「ガチンコになると、がらっと雰囲気変わりますよね。いや、才能ありますよ」
 話をしながら、耕平は太腿の上の手を離さない。耕平が離さない限りは啓二も離さないだろうと思うから、いつまでも手を置いているのだ。
 奈々美ちゃんはもう、石のように固まってしまっている。呼吸さえもままならない様子が、見ていて分かる。
(しかし、こんな純な子がAVに出るってのも珍しいよな)
 内心そう思いながら、耕平は話を続ける。
 そろそろ奈々美ちゃんを解放してあげた方がいいかもしれない。きっと帰っても、今日はなかなか眠れないだろう。
 一人悶々として、自慰にふけってしまうかもしれない。
 いずれにせよ、明日の撮影に支障をきたさないようにしなければ。
 耕平はそんなことを考え始めていた。急ぐことはない。時間を掛けて追い詰めていけばよいのだから。

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