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 スタジオの真ん中に、摩耶が座っている。
 膝を横に崩して、お尻をペタンと床に着けている。日頃の摩耶なら絶対に人前で見せない格好だ。
 今の自分は女王様ではないという気持ちが、その女っぽい姿に表れているようだ。
 まだ縛られてもいないのに、摩耶はしきりに右の二の腕の辺りを撫でさすっている。これからそこに縄を這わされるのだと思うだけで、その辺りがムズムズしてくるのかも知れない。
 耕平は商売道具の麻縄を無言で並べていく。
 摩耶も緊張していたが、耕平も緊張していた。自分の師匠でもある摩耶をこれから縛り、調教していかなければならないんだと思うと、体が震えてくる。
「なんだか」
 先に口を開いたのは摩耶だった。照れたような笑みを浮かべながら、耕平に話し掛けてきた。
「落ち着かないなあ」
「僕もですよ。汗掻いてます」
 摩耶の目付きがキッと鋭くなる。女の顔が消えて、女王様摩耶の顔になる。
「耕平」
「はい?」
「これから調教しようって相手に、敬語なんて使うんじゃないよ」
「あ、は、はい」
「はいじゃない!」
「お、おう!」
 どう答えてよいか分からずに、苦し紛れに口にした言葉を聞いて、摩耶は噴き出した。
「耕平、私の名前を呼んでごらん」
「名前?」
「私のことを、呼び捨てにするんだよ」
 耕平の喉がコクッと鳴った。
 知り合ってからずっと、緊縛の師匠として崇めてきた。周りのM女の面倒見もよく、人望があって、摩耶は耕平の手本であった。いつかこんな素敵なサディストになりたいと密かに思っていた。そんな摩耶にぞんざいな口を利くというのは、どうしても抵抗があった。
 だが、そうしなければならない。摩耶の上に立つことができなければ、調教などできはしないのだから。
 耕平は覚悟を決めた。摩耶のそばにツカツカと歩み寄り、摩耶の髪を鷲掴みにしてグイッと持ち上げた。
「あっ!」
「摩耶!」
 摩耶の顔を睨み付けるようにしながら、耕平は叫んだ。自分で思っていた以上に、強い口調になった。
 摩耶の目が欲情した。
「……はい」
「これからお前は、俺の牝奴隷になるんだ。いいな?」
「はい」
 耕平は、襲い掛かるようにして摩耶を抱き締めた。意表を衝かれた摩耶が、あっと小さく声を上げる。
 耕平は、摩耶の唇を唇で塞いだ。摩耶の体の力が抜けていく。
 長い長い接吻だった。時々、摩耶の体が息苦しそうに悶えるが、すぐにまた、耕平に身を委ねていく。
 やっと唇を離した耕平は、今度は摩耶の耳に口付けをしていった。擽ったそうに身悶えしながら、耕平の唇から逃れようと藻掻く。
「だ、駄目、耕平! 耳は駄目!」
「駄目じゃないだろう! 駄目です、だろう!」
「だ、駄目です、あはあっ!」
「耕平じゃない、ご主人様だ!」
「ご、ご主人様、そこは、そこはお許しください」
「駄目だ」
「はあっ!」
「なにを許してなにを許さないのか、それを決めるのは俺だ。お前じゃない。そうだな?」
「は、はい、その通りです。う、うんっ!」
「今からお前は俺に絶対服従だ。どんな酷い命令にも、どんな理不尽な仕打ちにも、お前は黙って従うんだ。そうだな?」
「ああ、従います、従いますから、もう許して」
「許して、じゃない。お許しください、だ」
「は、はあああっ!」
「ご主人様、耳に息を掛けられただけで、はしたなく乱れる嫌らしい牝豚を、どうか叱ってください。言ってみな」
「ああ、分からない。ごめんなさい、分かりません」
「分からなければゆっくり教えてやろう」
「ううう、はああっ!」
「ご主人様」
「ご、ご主人様」
「耳に息を掛けられただけで」
「い、いやあぁっ! み、耳に息を吹き掛けられただけで」
「はしたなく乱れる嫌らしい牝豚を」
「ああっ! あっ! は、はしたなく、み、乱れる、い、淫乱な牝豚を、ああああっ!」
「どうか叱ってください」
「叱ってください。ああっ! お、お願いです。摩耶にお仕置きを、あああっ!」
 そこで初めて、耕平は摩耶を解放した。熟れた摩耶の体には、唇と耳の刺激だけで相当に堪えたようで、肩で息をしている。床に倒れ伏したまま、起き上がれないのか、ぐったりとしている。
 その両腕を、耕平は背中にねじ上げる。そしてゆっくりと縄掛けしていく。
 摩耶が下から、耕平を見上げる。その目はすでに、マゾの目になっていた。

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