摩耶と二人、毎夜酒を酌み交わしていたスタジオの中が今日は騒がしい。スタッフがあちこちに待機して、撮影の準備を進めている。
摩耶はスタジオの隅で、メイクをしてもらっている。日ごろの女王様ファッションではなくて、淡いピンク色の長襦袢姿である。
その横でメイクをしてもらっているのは耕平だ。群青色の作務衣を着込んで、緊張に顔を強張らせている。
耕平の説得で、摩耶はSM作品にマゾとして出演することを承諾した。ただし、一つだけ条件を付けて。
相手役の男優が耕平であること。
これまでの経緯から言って、自分はでないとは言い出しにくかった。そんな訳で、耕平のビデオ初出演の話が急遽決まったのだ。
今日の監督でもある辻本社長が、耕平に声を掛けてくる。
「耕平ちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「わ、分かりません」
蒼い顔をして震えている耕平を見て、摩耶はおかしそうに笑った。そして細かく震えている耕平の手の上に、そっと手を重ねた。
「耕平、大丈夫だから。緊張しないで」
「で、でも」
「ちゃんとこっちを見るのよ」
「は、はい」
「あなたがそんなに緊張していたら、これからあなたに縛られる私まで不安になってくるじゃない。そうでしょ?」
言われて耕平、はっとした顔で摩耶の目を見る。
「意地でも毅然としていなさい。こんなこと、なんでもないよという顔をしておくの。分かった?」
「適わないな」
少し自分を取り戻した様子で、耕平は摩耶に笑い返す。
「やはり摩耶さんは、俺のお師匠様だ」
「今の私は、耕平の牝奴隷よ」
そして摩耶は、耕平の胸にそっと身を寄せ、耳元で囁いた。
「いじめて」
スタッフが辻本社長に合図を送る。撮影の開始だ。
「じゃ、摩耶ちゃん、耕平ちゃん、始めようか」
「はい」
摩耶は耕平の手を取って、導くようにしてスタジオの中央に歩んでいった。
摩耶は、耕平に背中を向けて、跪いた。耕平は麻縄を取り出して、身構える。
「ほう」
スタジオ中から声が上がった。ひとたび縄を構えた耕平は、まるで別人のように腹が据わって見える。仁王立ちになった耕平の体が大きく見え、跪いている摩耶の体が小さく見える。
経験豊かな摩耶に対して、耕平はいきなり過酷な吊りを施した。腰縄と片脚の二点だけで体を支える逆さ吊りだった。
そして耕平は、摩耶の体の上に熱蝋を垂らしていった。
「う、うううっ!」
摩耶が呻き声を上げて身悶える。構わず耕平は、蝋を垂らし続けていく。
蝋を垂らしながら、耕平はしきりに何か、摩耶に話し掛けていく。
「綺麗だよ、摩耶。お前の白い肌に蝋燭の赤が映えている。もっと綺麗に飾ってやろうね」
「ほら、今度はここに蝋燭を落とすよ。このスベスベの肌を汚してやろう。こうやって」
「熱いな、摩耶。お前の体が燃えているよ。ほら、蝋燭の下で、こんなに熱を持って。熱いだろ、摩耶? もっと燃やしてやろうね」
耕平の言葉嬲りに体が反応して、摩耶の体は本当に火照り始める。次第に喘ぎ声が高くなってくる。時々、放心状態になってしまったように、摩耶の表情が消える。明らかに摩耶は、本気で感じ始めていた。
摩耶の全身が蝋で真っ赤に染まっている。摩耶を一度地上に降ろした耕平は、背中に一本だけ縄を繋いで上に吊り上げ、マヤが腰を下ろせなくさせた。
そして耕平は、一本鞭を摩耶に振り下ろした。鞭先が摩耶の脇腹に当たり、摩耶の体が大きく揺れる。
「ああああ!」
一本鞭の衝撃に、摩耶は凄まじい悲鳴を上げて身を震わせた。
一本鞭を横に振って巻き鞭にする打ち方もある。だが実は、こうして普通に振り下ろす打ち方の方が数段難度が高い。縄以外の道具にも耕平が精通していたことに、周りのスタッフは驚いた。
ピシッ! ピシッ!
耕平の振る鞭は、鞭先で摩耶の体を舐めるようにして走る。一度舐められるたびに、摩耶の体が揺れ、震え、悶える。
「ああああ! ああああ!」
摩耶の体を覆っていた蝋燭の残滓が、鞭に弾かれて花びらのように舞う。変わりに、赤い蚯蚓腫れが、摩耶の体に一筋、二筋と刻み付けられていく。
スタジオの中に居るスタッフは、みな呆然として二人のプレイを見詰めている。あまりの迫力に、みなが息を呑んでいた。
「す、すごい」
誰かが思わず、そう口にする。それほど、今目の前で繰り広げられているプレイは、凄まじい内容だった。
「うううっ! あっ! ぐ、ぐううっ!」
摩耶の体はいまや、全身汗まみれになっている。時々、白目を剥くのは、一瞬意識が飛んでいるのかもしれない。
厳しい責めを受けながら、摩耶の目が耕平を見る。耕平の目も、ときどき摩耶を見詰める。
こうして時々、二人はアイコンタクトを取り合っているのだ。そして、秘かに心を通わせているのだ。
「もう一発いくぞ、摩耶!」
「ゆ、許して。もう、もう許して」
だが、摩耶の目が、もっと強く打ってとせがんでいる。その願いを聞き届けようとするように、耕平は鞭を振り下ろした。
ぴしいっ!
摩耶の体が大きく撥ねる。そして、振り絞るような声で絶叫する。
「ああああああっ!」
スタッフの熱い視線に囲まれながら、耕平の責めは延々と続く。
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