紗江は出家して名を美照尼と改めた。真砂は俗体のまま、今まで通り美照尼に仕えていた。
美照尼が寺に入って数日が過ぎた。経文を読み、寺の掃除をし、庭の菜園の手入れをする。寺に入ってからの美照尼の暮らしは、以前とは比べ物にならない穏やかなものであった。
宴の後を片付けている美咲は、そんな啓介の言葉にぎこちない笑顔を返す。表情も心なしか、いつもよりも硬い。
ある日、麓の村から三人の農夫がやってきた。
本来、尼寺は男子禁制である。だが、農夫たちは寺に、今年収穫された野菜などを寄進しにきてくれたのだと言う。慈恵尼は、男たちを寺の離れの一室に通した。
「美照尼、こちらへ」
「はい」
慈恵尼に随いて奥へゆくと、そこには三膳の食事が用意されていた。美照尼とは別に呼ばれていた尼たちが、そのうちニ膳を持ち上げる。
「美照尼、あれを持って、この者たちの後に随いていっておくれ」
「あの農夫たちに、食事を振る舞うのですか」
「ええ」
「そこまでしてやる必要が、あるのでしょうか」
「わざわざ私たちのために、食料を運んでくれたのです。それくらいしてやってもバチは当たらないでしょう」
仕方無く美照尼は、言われた通りに膳を捧げて、二人の尼の後に従った。
三人が部屋に入っていくと、農夫たちはいかにもいやらしそうな目付きで美照尼たちを眺めている。美照尼は思わず、身を縮めた。
「これは、新しい尼さんかね」
「はい。美照尼と申します」
美照尼本人に代わって、別の尼がそう言葉を返す。農夫たちは、僧衣の奥を見透かすような目付きで美照尼の体をじろじろと眺めた。
だが、そこまでである。膳を据え終わると、先輩の尼たちはさっさと立ち上がり、出て行く。美照尼も、それに従った。農夫たちはその待遇に慣れているのだろう。別に不満な様子も見せず、お互いの杯に酒を注いで飲み始めた。
昼間の間は、それで良かった。
その夜、美照尼は奇妙な気配に気付いて目を覚ました。
「美照尼様」
隣りの真砂がそっと話しかけてくる。真砂もまた、あの物音に目を覚ましたものらしい。
戦乱の時代である。美照尼の頭に一番に浮かんだのは、賊の侵入であった。外部からの敵か、それとも、昼間の百姓が暴れ出したのか。
美照尼は、懐に短剣を忍ばせると、そっと立ち上がった。真砂も、後を随いていく。
物音は、確かに昼間の百姓が通された部屋から聞こえてくる。それではやはり、あの者たちが賊と化して暴れ出したのであろうか。
隣室からそっと襖を透かし、中を覗き込む。美照尼も真砂も、驚いて声を上げそうになる。
中では確かに、昼間の百姓たちが寺の尼を犯していた。
一人は木箱の上に体を乗せて、後ろから突かれている。バタンバタンという音は、男の腰の動きのせいで、木箱が床にぶつかる音だった。
もう一人は床に長々と寝そべって、脚を大きく開かされ、上に伸しかかった男に刺し貫かれていた。この尼の体の下の床板も、男の腰の動きに合わせてぎしぎしと鳴った。
最後の一人は、男の膝の上に乗るようにして茶臼に犯されていた。男の体が揺れるたびに女の体も動く。いや、もしかすると、女の方が積極的に体を上下させているのかもしれない。
「あああっ! か、堪忍! もう、堪忍してくだされ!」
「だ、駄目! おかしくなる、ああ、変になってしまいます」
「い、いやあ! いく、い、いきます!」
農夫に犯されている尼たちは、口々に官能の声を上げ続けていた。
驚いたのはそれだけではない。三組の男女を眺めるように、妙徳尼と慈恵尼が座っていたのだ。二人の前には膳が並べられ、そこには酒まで添えられていた。
二人は、笑っていた。必死で腰を動かし続ける農夫たちの動きがおかしいと言っては、そして農夫に腰を突かれて悶える尼たちの乱れようがおかしいと言っては、二人は腹を抱えて笑っていた。
二人の顔は、もう真っ赤である。よほど酒がすすんだと見える。
美照尼の顔に、怒りの色が浮かぶ。
それは、百姓たちによる陵辱ではなかった。妙徳尼と慈恵尼の二人が尼と百姓に命じてこの痴態を演じさせているのである。
「仏に仕える身が、なんとふしだらな。なんと破廉恥な」
「美照尼様」
「真砂、随いておいで。この寺を出るわよ」
そっと部屋から出て行こうとする美照尼と真砂を、突然黒装束の人間が取り囲む。美照尼と真砂は、懐中の短刀を抜き放って、身構えた。
だが、敵はどうやら、百戦錬磨のつわものらしい。二人とも、簡単に短剣を叩き落とされて、取り押さえられてしまった。
「は、離せ! 離さぬか! ま、真砂!」
「び、美照尼様!」
なんとか逃げ出そうと必死で藻掻きながら、美照尼は黒装束の一段を観察した。
(くノ一)
黒装束の一団は、皆揃って豊かな乳房を湛えていた。尼寺だけあって、雇っている忍者も女ばかりであるようだった。
襖ががらりと開けられる。妙徳尼と慈恵尼が、並んで二人を見下ろしている。
「どうやら、気付かれてしまったようだね」
「妙徳尼様、これは一体どういうことでございますか!」
「見ての通りじゃ」
妙徳尼は、顎で後ろに合図を送る。三人の男たちは、慌てて外に消えていく。裸の尼たちも、着物を胸に抱えて寝所に消えていった。
残ったのは妙徳尼と慈恵尼の二人、そして黒装束の女忍者たちである。
女忍者は、全部で五人居るようだった。
「この寺に女を集めたのは、仏に仕えさせるためではない。私に仕えるために集めさせたのじゃ」
「そなたたち二人にも、いずれ奉仕させるつもりであったが、こんなに早く気付かれるとは思わなんだわ」
慈恵尼と妙徳尼の説明を聞きながら、美照尼は唇を咬んだ。
「このような罰当たりなことをして、いずれ天罰が下りましょう」
妙徳尼が、ほほほと笑う。
「仏罰が下るというのであれば、その罰をあまんじて受けようぞ」
そして、妙徳尼は、高手小手に縛り上げられた美照尼の顔を覗き込んだ。
「だがその前に、私がそなたに罰を与えねばなるまい。
「私に、罰?」
「勝手にこの部屋を覗いた、そのお仕置きをな」
妙徳尼の顔が、残忍に笑う。美照尼は思わず、身を竦めた。
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