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 軍兵衛が目を覚ました時、お清は居なかった。お清が軍兵衛のそばを離れるのは珍しい。軍兵衛の許可を得ることも無くどこかに行ってしまうというのは、まずあり得ないことだった。
 軍兵衛は、不吉なものを感じた。
「お清」
 名前を呼んでみる。少し辺りを探してみるが、お清の居る気配は無い。
「お清」
 軍兵衛の胸騒ぎは、次第に現実的なものになっていく。
 お清は、敵の忍者に襲われて命を落としたのかもしれない。敵が軍兵衛に気付く前にお清が移動したので、軍兵衛は助かったのだろう。
 もしそうだとするならば、ここから先は軍兵衛一人でがんばっていかなければならない。
 そう考えると、軍兵衛は改めて、お清の存在の大きさに気付くのだった。
 ひゅんっ!
 何かが飛んでくる鋭い音に、軍兵衛は反射的に身を避けた。軍兵衛の頭のあった位置に伸びていた木の枝が、鋭い切り口で斬り落とされる。
「誰だ!」
 返事が無い。代わりにまた、光る何かが軍兵衛を襲う。軍兵衛は辛うじて身を避ける。
 光るものの正体ははがねの糸だった。その糸全体が鋭い刃となって、軍兵衛を襲ってくるのだ。
 軍兵衛は小太刀を抜いて、この糸を絡め取ろうとした。
 かきんっ!
 鋭い金属音を立てて、小太刀が折れる。鋼の糸の威力に、小太刀の方が負けた。
「くそっ!」
 軍兵衛怖るるに足らずと考えたのか、敵の忍者が姿を現した。忍び装束のくノ一だった。
「曲者。お前の手下の女忍者は、こちらの手の中に落ちたぞ」
 軍兵衛の表情が、驚きに歪む。
「お清は生きておるのか」
「お清という名か。安心せよ。まだ死んではおらぬ」
「そうか」
 軍兵衛は少しほっとした。どうやらお清はまだ、生きているらしい。
 だが、今度は別の不安が湧き上がってくる。
 紗江の背中の透かし彫りと、お清の背中の透かし彫り、二つを合わせてしまえば地図が完成してしまう。敵は、その二つともを手に入れたことになる。
 相手は果たして、二人の背中の秘密にもう気付いているのだろうか。もし気付いていなければ、気付かれる前に二人を救出しなければならない。もしすでに気付かれているとすれば、この寺の人間、一人残らず生かしてはおけない。
「まだ、あのくノ一は口を割ってはおらぬ。だが、落ちるのは時間の問題じゃ」
 ひゅんと音がする。軍兵衛の横を、銀の糸が走る。
「曲者。お前も降参して投降するか。それともここで命を落とすか。選べ」
「お前は、銀糸の小暮じゃな」
 名前を言い当てられて、小暮はいやな顔をする。なぜ自分の名が相手に知られているのか、それが分からない。
「死ぬのも捕まるのも、ごめんじゃな。お前が儂に捕まるというのはどうじゃ」
「ぬかせ!」
 再び、銀糸が飛ぶ。軍兵衛はそれを横飛びに避ける。
 風上に立った軍兵衛は、一枚の紙を小暮の方に飛ばす。
「小暮、それを見よ」
 軍兵衛の言葉に釣られて、小暮はその紙を掴む。そこには五人の女忍者の名が書き連ねられている。すでにその中の三つが消されているのを見て、小暮はかっとなる。
 三人が既に敵に倒されていることはうすうす予想していた。だが、改めてその現実を突きつけられて、小暮の頭に血が上った。
 ひゅん!
 何かが投げ付けられる。小暮は反射的に、銀糸を投げる。投げ付けられたものが真っ二つに斬り裂かれる。
 それは、水を中に満たした竹筒だった。中の水がばっと弾けて、小暮の全身に降りかかる。
「あっ!」
 反射的に小暮は跳んだ。一瞬、視界が閉ざされてできた隙を、突かれることを怖れたのだ。
 だが、軍兵衛の動きも速かった。着地したとたん、小暮は押し倒された。くノ一と言っても女である。男に上から馬乗りになられると、もう、身動きができない。
「は、離せ!」
「離しはせぬよ」
 上から小暮を眺めながら余裕の笑みを浮かべている軍兵衛を睨み付けながら、小暮は自分の股間に異変を感じた。乳首が固くなって、息が荒くなってくる。
 目の前の男に陵辱されたい欲望に、小暮は戸惑っていた。



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