数日が過ぎた。
妙徳尼と慈恵尼は、寺の前庭に立っている人影に気が付く。
「お前は、先日忍び込んできた曲者じゃな」
「紗江様を返してもらいにきた」
妙徳尼がほほほと笑う。
「懲りぬ男じゃな。何度忍んできても、お前は我らに勝てぬものを」
「今日は紗江様を返してもらうまで、ここを動かぬ」
「動く必要は無い。今日はお前にここで、引導を渡してやるわ」
妙徳尼が口の中で、何やら怪しげな呪文を唱える。寺の中からむくむくと白い雲が湧いてくる。雲の中から巨大な龍が姿を現す。
龍は天地をどよめかすような大音声で吼えながら、今にも軍兵衛を呑み込みそうな様子でうねうねと動いている。龍の舌先が、軍兵衛の体を舐めていく。
軍兵衛は必死で恐怖と戦っていた。だが、体は小さく小刻みに震え、額からは脂汗が流れている。ぐっと握り締めた拳も、がたがたと震えていた。
その時、軍兵衛の後ろから突然、六つの人影が飛び出してきた。忍び装束に身を包んだ六人は龍の横を擦り抜け、雲の中へと飛び込んでいく。
「ぎ、ぎゃああっ!」
「うわあああっ!」
悲鳴がすると、雲と龍の姿が掻き消すように消えた。軍兵衛は、最初と同じ寺の境内に立っていた。
寺の中には、忍びたちに斬り付けられ、今や断末魔の妙徳尼と慈恵尼が倒れている。忍び装束の人間も一人、手裏剣を受けて倒れていた。これはおそらく、妙徳尼と相打ちにされたようだ。忍びは、すでにこと切れているようで、ぴくりとも動かなかった。
妙徳尼が、苦しそうに呻く。
「ど、どうして」
「お前の術は、幻術使いの八重と同じ術じゃな。そうであろう」
「うううっ」
「八重の時もそうであった。この前の龍の時もそうであった。儂だけが術に掛かって、お清は掛からなかった。つまり、お前たちの術は、男だけに作用する術なのじゃ。そうであろう」
妙徳尼は答えない。すでに、意識朦朧とし始めているらしい。最期の時が近付いていた。隣りの慈恵尼は、すでに動かなくなっている。
「だから今回は、お清の忍びの里から、くノ一だけを借りてきたのじゃ。案の定、この者たちはまるで術に惑わされることは無かった」
「わ、私を倒しても無駄じゃぞ」
最期の力を振り絞り、妙徳尼は呻いた。
「戦さがこの世にある限り、女の恨みは絶えぬ。たとえ私が死んでも、私のような者が必ず現れてくる」
「どうでもよいことじゃ」
軍兵衛は、刀を引き抜いた。
「儂は、与えられた使命を全うするだけよ」
軍兵衛が妙徳尼にとどめを刺す。心の蔵を抉られた妙徳尼は、ぐぐうっと苦しそうな声を上げ、動かなくなった。
奥から、人影が現れた。美照尼であった。
真砂に支えられて辛うじて身を支えている美照尼は、今起こっている事態の意味が分からないとでもいう様子で、呆然として立ち尽くしている。
軍兵衛が、跪いて礼を払う。
「紗江様、お久しゅうございます。小暮軍兵衛でございます」
「軍兵衛。覚えています。確か、殿のお城で二、三度顔を合わせたことがある」
「もっと早くにお助けしたかったのですが、手強い敵に行く手を阻まれ、今日まで掛かってしまいました。申し訳ございません」
「よく来てくれました。礼を言います」
「殿から紗江様への書状を預かってまいりました」
「え? 殿からの?」
「これに」
軍兵衛が差し出す手紙を、美照尼は震える手で受け取り、中を開いた。
読み進んでいくうちに、美照尼の目は懐かしそうに潤み、時には失笑を洩らし、ついには涙を溢れされた。松永弾正の手紙には、美照尼の心を蕩かせる、優しい言葉で満ちているようであった。
だがやがて、美照尼は驚きに顔を強張らせ、そして顔を赤く染めた。
何が書いてあったかは言わずとも分かる。軍兵衛に背中の透かし彫りを見せてやれと書いてあったのだ。それは、軍兵衛の前で裸になり、性的に昂奮してみせるということを意味する。
美照尼が、後ずさる。
「紗江様」
「軍兵衛、私に近付いてはなりませぬぞ」
お清はそっと美照尼の背後に回り込み、そして後ろから羽交い絞めにした。他のくノ一たちも、一斉に美照尼に襲い掛かる。
「あ、何をする! は、離せ!」
「紗江様。失礼!」
軍兵衛は膝擦りで進み出ると、美照尼の着物の前をぱっとはだける。美照尼の若くて美しい下半身が、剥き出しにされる。美照尼はあっと声を上げ、腰をくねらせた。
美照尼のそこは、すでにじっとりと濡れている。
妙徳尼らに開発された美照尼の体は、軍兵衛らの前で裸に剥かれるという想像だけで熱くなってくるほどに成熟させられていた。いやいやとむずがりながら、心の中では早く裸にされて、恥ずかしい自分を見て欲しいと望んでいることは、すでに恍惚となり始めている顔付きで分かる。
「御免!」
軍兵衛は壷の薬を指に掬い取り、美照尼の股間に塗り込んだ。
これまでは、肝心の時に薬が無くなってしまわないように、加減して使っていた。今日はそのような気遣いも要らぬ。軍兵衛は、今までの何倍もの量の薬を掬い取り、美照尼の股間にたっぷりと塗り込んだ。
美照尼は、大きな声を上げて腰を震わせた。
「ああああっ! つ、冷たい!」
だが、その冷たさがやがて、狂おしいほどの焦燥感に変わることを、美照尼はまだ知らない。
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