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ワンズ・ファクトリー 『女優−拘束マニア』湯川えり

 拘束面接 A




 監督は急がず、少しずつえりのガードを外していく。
「けっこう恥ずかしいのから濡れてきたりとか」
 監督の言葉にえりが反応する。軽く昂奮したように笑い声を上げながら、えりの体が前に出てくる。
「あ、するかもしれない。私、エムかもしれないです」
「あ、そう。エムの気あるのかな」
「エムっぽいかもしれないです」
「あの、今回のテーマが、拘束っていうテーマなんだけど」
「ああ、はい。拘束」
「コウソクって言っても、首都高じゃないよ」
「あ、そうですね。すっごく速くて。ははは、違う、違う」
 監督の親父ギャグを、えりが乗り突っ込みで受ける。こんな時にも、自分の武器のキュートな笑顔は忘れない。
「ははは、じゃ、なくてね。要するにこう、縛られたりとか、拘束具、手枷足枷とか付けられて身動きできない状態で、色々されたりとか、まあ、延々とテーマが拘束なんだね」
「ずっと拘束なんですか?」
 言いながら、えりは自分の手首を一つに重ねてみせる。緊縛の嫌いな子なら、こんなジェスチャーはしない。自分で言っていた通り、確かにマゾの気がある子のようだ。
 えりに合わせて、監督も自分の腕で拘束された姿をジェスチャーしてみせる。
「そう。こんな形で拘束されたり、こんなことされたりとかさ」
「はい」
「で、動けない女の子をみんなで悪戯したりとか」
「ほおおお」
 えりは、あらいやだという手をして見せながら、意味深な目で監督の方を見た。
「ふふ、昂奮しますね」
「あれ、目が輝いたね」
「あはははっ」
「嫌いじゃない? そういうの?」
「嫌いじゃないかも。意外と」
「あ、ほんと」
 一度気を許したえりは、どんどん本音の言葉を発してくる。どうやらすっかり、監督に気を許してきているようだ。
 そろそろ次の段階に、話を進めてもよさそうだ。
「じゃあね、本番で実際に縛りとかあるから」
「うん」
「面接の時にどれくらいできるか、見ておかなくちゃいけないから」
「うん。うん、はい」
「ちょっとじゃあ、良いかな?」
 そう言いながら、監督は横に置いてあった鞄を開ける。中から、麻縄の束が出てくる。意外なものの突然の登場に、えりが爆笑する。
「はははは、持ち歩いているんですか? いつも?」
「ん? まあ」
 監督は内心北叟笑む。ほんの数分前、麻縄という言葉を言い淀んでいた娘が、今は麻縄の現物を見てもなんの抵抗も示さない。
 もともと、SMに興味のある子なのだ。だが、この業界の中でその本音を見せれば、何をさせられるか分からない。だから警戒していたのだ。
 だが、その警戒心もどうやら解けたらしい。ここは一気に畳み込んでしまおう。監督は、さり気ない様子を装いながら立ち上がった。
「じゃ、基本的なものだけやってみようか。ちょっとごめんなさい」
「あ、はい」
 リラックスしていたえりの顔が、再び強ばる。だが、それ以上拒絶するタイミングをつかめず、立たされてしまう。
「ちょっと、後ろを向いて」
 えりは、後ろを向く。そして、監督から言われる前に、自分から両手を後ろ手に組んでしまう。
 さっきからの監督とのやりとりで、えりも少し昂奮し始めていたのだ。面接の段階で緊縛などして欲しくないという気持ちと、今ここで縛られてみたいという気持ちが、えりの中で交錯していた。
「あの、体の柔らかさも見ときたいから。」
「はい」
「手が震えてるね。どうしたの?」
 事実、えりの手は震えていた。面接の段階で縛られてしまうというシチュエーションが、えりの被虐心に火を点けてしまっていた。
「いや、ちょっと、なんか……」
 声も、さっきまでの弾むような話し方ではなくなっている。そんな変化に気付かないふりをしながら、監督はえりの手首を縛っていく。
「なんか、どうしたの?」 
「なんか、緊張する」
「緊張する?」
「うん」
 こんな会話の間も、監督は緊縛の手を止めない。
「まあ、撮影の時にはもっとちゃんと縛れる人を呼ぶから、今日はその人にね、一応これくらい縛れますよっていうのを、言わなくちゃいけないから」
「あ、はい」
 分かったような分からないような理屈を並べながら、監督はどんどん縛りを進めていく。えりは時々、背後の様子を不安げに窺いながら、それでも監督のされるがままになっていた。

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